「ラグちゃん、こっちにちょっと来られるかしら?」
「何だ?」
「まあ、早い」
ログハウスまでお肉を運んでもらったガルフィさんはもういないわ。
帰宅して、最近は眠る事が多いリアちゃんを頭に乗せたまま、黙々と作業を終わらせればもう夕暮れね。
目の前に現れたのは、竜の聖獣ラグォンドル。
今は抱き枕サイズよ。
「基本お前が呼ぶのは珍しいからな。
もっと呼んでもいいんだ」
「まったく、いつも呼ばれる前に出てくるんだから、珍しいもないだろう」
あら、目覚めたらしいリアちゃんは寝起きが悪そう。
「なんだと?」
「なんだい、ヤンデレ坊主」
「ストップ、ストップ」
突然始まった聖獣ちゃん達の口喧嘩がひどくなる前に止めに入るわ。
キャスちゃんがお出かけしてて良かった。
三つ巴合戦になっちゃうもの。
「リアちゃん、時間がなくなると向こうでゆっくりできないわ」
「はっ、それは……」
相変わらず私の頭に鎮座中のリアちゃんはハッとして口を噤む。
「何だ、でかけるのか?
俺も……」
「ラグちゃんには尻尾でアレ、ペシペシして欲しいの」
「アレ?」
床に直置きした皮袋を指差す。
皮袋にだけ物質強化の魔法をかけてお肉を入れ直したのよ。
「兎熊のお肉なの」
「よし、任せろ」
ラグちゃんも下処理した兎熊のお肉料理が大好きなのよね。
「床も物質強化してあるし、防音対策もちゃんとしてあるから、問題ないわ。
終わったら袋ごと凍らせておいて欲しいの」
「わかった」
私のお願いに快く頷いて、直ぐさまやってくれるわ。
ラグちゃんの食欲が味方してくれたようね。
ドゴン!!
ドゴン!!
ドゴン!!
ドゴン!!
ふふふ、華麗な尻尾さばき、素敵よ。
破壊音が半端ないわ。
でもあのお肉は叩きのめせば叩きのめすほどに柔らかくなるし、この後にする処理で臭みも抜けやすくなるから、気にしない。
「鍵もしっかりかけてあるから、あと10分くらいやっといてちょうだい」
「わかった。
俺はほろほろ煮込みがいい」
「任せて」
そうしてテーブルに立てかけておいた虫取り網を手に、頭に向かって声をかける。
「リアちゃん、お待たせ。
いきましょう」
前世で子供達が小さい頃、こんな網を持って旦那さん主導で山に入っては、昆虫採集していたわね。
「じゃあ、転移するよ!」
当時を思い出してほっこりしていれば、翼を広げたリアちゃんが私の頭を羽で挟むようにバサリと羽ばたく。
景色が瞬時に変わったわ。
きっと私の頭がド派手に彩られた事間違いなしの瞬間ね。
前世で毎年大晦日の夜、テレビで目にしてたド派手な衣装をちょっと思い出しちゃった。
「もうじき日が落ちるわね。
急ぎましょう」
「そうだね。
足元には気をつけるんだよ。
魔獣共は私に任せな」
「襲ってくればお願いするわ」
なんて言いつつも、ここで私達を襲う生存本能が皆無な魔獣なんていないでしょうね。
だってリアちゃんたらわざと周りを威圧しているんだもの。
無益な殺生を望まない、リアちゃんらしいやり方ね。
辺りには小川の流れる涼やかな水音が流れていて、川辺りは岩や砂利がたくさん。
まだこの体が小さい時に、足を取られて転んで擦りむいた事があるの。
以来リアちゃんと来ると必ず足元の注意喚起を受けるのよ。
「いるいる。
良かったわ、花が開く前で」
暫く上流に向かって歩けば、そこには落ちる夕日に照らされ、川に流される事もなく葉っぱと花の部分だけ水面に出してプカプカ浮かぶ植物型魔獣、ワサ・ビー。
小さな蕾が白く色づきかけているわ。
「それじゃあ、植物採集してくるわ!
採ってる間はこれでも見ていて」
「はぁぁぁぁぁ、ようやく……」
リアちゃんのお声が歓喜に震える。
「ふふふ、完成させた18禁大奥シリーズ第4巻」
「着物イツモノ乱デ舞シリーズ!
ヒャホー!」
亜空間収納から出した、できたてホヤホヤの小説の束を差し出せば、雄叫びを上げて目にも止まらない速さでクチバシキャッチ!
からの、大きな岩に鎮座し直したわ。
あ、魔法でライトボール点けた。
速技ね、恐れ入るわ。