『幇助……言いがかりです』
私の言葉に、側妃が改めて周囲を見回し、冷ややかに見つめられている事に気づいたようだ。
グッと口元を引き結び、押し黙る。
レジルスにとっての本題に対する根回しは、既に終わっておる。
故に母である王妃も、この場に同席したのだ。
もちろん王妃は側妃の、ある権限を確実に手中に収める目的もあろう。
まだ幼かった息子の命を危険に曝し、王族故に貴重であった、母子としての時間を奪われた。
その魔法呪の一件に、側妃が一助を担ったと考えておる。
この春、娘である第1王女が毒殺されかかった事も含め、怪しんでおるのだろう。
無論、証拠はないが。
何はともあれ、公女個人への執着を見せる側妃に、この件をどう切り出すか。
大人しくさせるには、まずあの権限を奪うしかあるまいな。
『今、そうなっておらぬのは、ロブール公爵が王家とアッシェ家へ配慮し、事を荒立てずにおるからだ。
それ程に、第2王子は学生を死に向かわせる愚かな意識付けを自覚なく行い、死人が出るという最終かつ決定的な証拠を残しておる。
よりによって数の多い労働階級層からの心象を、あまりにも悪く先導し過ぎたのだ。
このまま公爵が公の場で破棄を宣言すれば、王家といえど、第2王子には罪人として沙汰を下さねばならなくなる。
婚約の相手を憂いておる場合か。
よく考えよ』
『……では、どうすれば……』
罪人としての沙汰という言葉に、少しは頭が冷えたのか、余を見やる目が縋るものへと変わる。
あと一押しか。
『のう、公爵よ。
婚約の解消で手を打ちはすまいか?
側妃とロブール夫人とで進めた婚約であり、王家とロブール家の合意の元に至った話。
公女が故意に愚息との交流を断っていたのもまた、明白。
ロブール家の責任が無いとも言い切れぬ』
『娘と第2王子との縁が切れれば、まあ、それで?』
まったく、もの凄くどうでも良さそうな顔をしてくれるな。
さっさと己の部屋に戻りたいと顔に書いておるぞ。
しかし父娘揃って愚息に罰を望んでおらぬのは、愚息にとって僥倖。
余にとっては、些か残念だ。
それ程、愚息はロブール家の当主と公女に、何の爪痕も残せずにおったという事。
ライェビストに至っては、顔の識別ができてなさそうな気すらしてしまう。
そのような者には早々に、王位継承から遠のいてもらわねばな。
『そんな……しかし、公女に責任がある以上、もう1度初めから関係を始めれば……』
にしても、諦めが悪すぎよう。
側妃の後ろ盾でもある、アッシェ家当主の眉間の皺が深まっておるぞ。
『側妃よ、それ程に第2王子のした事は、悪辣であった。
更には身の程知らずにも、己の実力を見誤り、蠱毒の箱庭に入り、あまつさえ1人の公子の未来を潰す失態も犯しておる』
その言葉に、側妃は後ろ盾に視線を向け、固まる。
騎士団長たる威圧が、眉間から放たれておるような顔になったか。
『わかるか?
失態だ。
それも己の矮小な自尊心を取ったが故』
『それは……婚約者であるロブール公女の為に……』
側妃の言葉に、もう良いかと判断する。
無論、この者を切り捨てると決めての事。
『もう良い、黙れ。
側妃よ、王族の一員としてのまともな判断もできぬと、余だけでなく、この場の皆が判断したであろう。
今この場でもって、そなたが持つ息子の婚約者を推挙、任命する権限は、剥奪する』
思った通りに事が運び、思っていた事を宣言すれば、理解が追いつかなかったのであろうな。
ポカンとした顔になる。
側妃の立場に代々与えられてきた権限を失うなどと、考えた事もないのようだ。
『……え?
え、はく、だ……陛下?
それは……』
『理解力が鈍ったか?
側妃に認められた権限の1つを、剥奪する』
『なり、ません……なりません、陛下!
どうか……』
『無論、そなたの産んだ第3王子についての権利も然り』
『そんな?!
お待……?!』
突然、側妃の形の良い唇が、己の意思とは関係なく、引き結ばれた。
『側妃であるという自らの立場をわきまえ、口を慎みなさい、クリスタ。
なんとも、見苦しい』
不快感を隠しもせぬ王妃が、冷たく言葉を投げた。
無論、王妃の魔法だ。