「不勉強でも立場上、そうした事を知る機会は人より多いもの」
ふと、公女の口調が少し変わっている事に気づく。
些細な変化。
けれど確実な変化……公女が背を向けているからかしら。
今まで感じられた公女の感情……全く感じない?
いえ、感じないというよりも……無、かしら?
え、どうして?
無?
喜怒哀楽が全て消えたような……何も無いって……そんな事があるの?
教皇もいくらか眉を顰めているから、きっと変化に気づいているんじゃないかしら?
それよりも、公女は先々代の王妃の名前が消された理由を知っているの?
どうしてか消されたのかについては、全く触れる気配がないもの。
もし私なら、絶対にそこが気になるわ。
「そうですね、貴女の立場は公女である事に違いはない。
それも当然だったのでしょう」
「スリアーダはあなたを簡単に懐に入れたのかしら?」
「ふ……ええ」
教皇は公女の背に微笑みかける。
「公女はあの女の性格をどう聞いていたのでしょうね?
元々の性格を考えれば、早々懐にははいれなかったでしょう。
昔から用意周到で、用心深い、
しかし姫様亡き後、あの女が世に言うところの蟄居したなどとは、当然建前でしたからね。
現実は夫であった先々代の国王に、姫様の過ごされた離宮に閉じこめられ、監視されていました。
状況的にも私に頼るしか無かったのが、良かったのでしょう」
教皇は当時を思い出すかのように、饒舌に語り続ける。
でもやっぱり、どこか時間を引き延ばしているみたい。
「そうそう、この顔だけでなくこの魔力も役立ちましたよ。
スリアーダは閉じこめられる際に魔力を封じられ、魔法具も取りあげられました。
私の魔力にも十二分に魅了され、信者のように私を信じてくれました。
あの女が隠していた姫様の髪の在り処も、すぐに口を割りましたよ。
髪を手に入れた私はそこの悪魔と手を組み、追いこまれたスリアーダを唆して依代にし、悪魔に体と魂を食らわせて、消えかけた存在を今度こそ顕現させ、こちら側に留める事ができました。
もちろんその間に私は教会に入りこみ、先代の教皇も懐柔していきました」
「……そう」
公女は1つため息混じりに相槌だけを打つ。
教皇の独白のような言葉にも、未だに振り返らないけれど、やはり相変わらず感情は無いままみたい。
「あなた、悪魔の力を受け入れて、契約したの?」
「まったく、あなたはそういう事はよく知っているようですね。
もしや無才無能や不勉強というのは、カモフラージュでしょうか?」
教皇は公女を検分するかのように目を細め、華奢な背中を見やる。
「当時の私の魔法はまだ未熟でしたから、そこの悪魔の力はどうしても必要でした。
貴女のお陰でもうじき、契約は満了となります」
「そう……」
まだ……。
口の中だけで呟かれた声を、耳が拾う。
まだって、どういう意味?
「ねえ、そろそろ始めてくれない?
いつまでつまらない話をしているの?
これ以上は情が湧いて躊躇していると、そう捉えてしまうわ?」
ローブの誰かは愉しそうに口元を歪め、教皇に次の行動を促す。
情が湧く……確かに教皇はずっと一定の距離を保ったまま、公女に近づく事もしていない。
「……は、そうですね……ええ、わかっています」
暫くの沈黙の後、自嘲したように息を吐いたのは教皇だった。
彼は自分に言い聞かせるように、そう言葉を発した後、公女の方へゆっくりと一歩踏み出し、右手をかざして魔力をそちらに集中させた。
私の直感が、これ以上は危険だと告げた!
公女の足下に、多分魔法陣らしき模様が浮かびようになる!
させないわ!
私はすぐに公女の元へと走り寄って、公女の手を掴んで引っ張って走る。
正直、怖くて公女の顔を確認する余裕もない!
「公女、今度こそ逃げますよ!」
声をかけて引っ張って走れば、足下に現れかけた魔法陣が霧散した。
「何者……」
「え、どこから」
戸惑う教皇とローブの誰かは無視して、間を遮る土壁を瞬時に下から突き上げた。
「……え?」
でも、意図した物でない、行き過ぎた魔力が魔法となって発動してしまう。
そのせいで思わず、間の抜けた声を出してしまったわ。
何で分厚い岩壁が出てきちゃったの?!
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そして7/10に発売した本作1巻の【重版】が決定しました!
昨日連絡もらってびっくり!
お買い上げいただいた方のお陰です(≧∇≦)/
ありがとうございます!
そしてそしてこれは他サイトですが、カクヨムの方で本作のフォロワー様限定メールにて、近日中にそのご報告用SSが発信されると思いますので、よろしければそちらにアカウントある方は、そちらの方も一時的にでもフォローして見てやって下さいm(_ _)m
何やらそんな機能があちらには実装されているらしいです。
いつのタイミングかは……これからSS作って編集様に送ってからになるので……とにかく近日中という事で(;・∀・)
そしてそしてそして、2巻の発売も決定しました!!
多分、きっと、そのはず!
いや、まずは2巻原稿の方を迅速にやります!
発売日等は決定次第、またお知らせしようと思っていますので、こちらも1巻共々お買い求め下さると嬉しいです(*´艸`*)