「で、できまし、た?」
「ええ、とっても上手にできたわね、ディ、ゴホン、リンダ嬢」
何か言い間違いをしそうになったらしい公女は、咳払いをしてから私を見て、優しく微笑んでくれた。
相変わらずのお祖母様的な微笑みだわ。
「はい!」
けれど土ではなく、明らかに強度のある岩に広範囲の穴を掘り、無事に異形の何かを落とせた私は、有頂天で返事をした。
不思議な事に、まだ光っている魔法陣はそのままの状態で穴に落ちている。
消えなかったのが、気にはなるけれど、消えて魔法陣から出て来られるのも困るわ。
「それじゃあ、次は穴を凍土で蓋して、固めてしまいましょう」
「はい!
……え?」
勢いのままに返事をしたものの、意図してやった事はない、むしろ今日初めて凍土なんてものを出した私に、今、何と?
「名づけて【臭い物には蓋】作戦!」
「ええ?!
でも、土蓋ならともかく、凍土は……」
臭い物には蓋って、そのままの意味よね?!
確かに臭いはキツいもの!
「あらあら、ただの土蓋だと腐臭どころか何かが醗酵して、中がとっても臭くなってしまいましてよ?」
やっぱりそのままの意味だったけれど、まさかの冷所保存を狙っての凍土発言?!
「醗酵ガスが充満して、爆発しても困るでしょうし?
それこそ真夏の週末、ロッカーに頂き物のキムチを放置していたら、爆発するかのように……あれ、色も臭いも含めて、色々と大惨事だったのよねぇ」
最後はしみじみとした口調で、片頬に手を当てて遠い目をして、何を言ってるの?!
キムチって何?!
大惨事な爆発って何?!
あの異形の魔獣は、爆破系の魔法具もどきだったというの?!
「それにほら、そろそろ次の……」
『さて、それでは残りの魔法陣をいい加減解除しましょうか。
まさか殺傷能力の低い魔獣と人の寄せ集めに遅れを取ってはいないでしょう?』
「きゃあ!」
公女の言葉を遮るかのようにして響いたのは、もちろん教皇の声。
不意打ちのようにして耳に響いた声に、思わず身を竦ませて叫んでしまう。
「まあまあ、ここでキャア……これはやられましたわ。
リンダ嬢もやるやつでしたのね……」
公女は何にやられて、どうして今度は私を見て闘志を燃やしているの?!
何のやるやつなの?!
私もってどういう事?!
公女の思考回路が、全然理解できない!
まさかこれも腐の修行?!
「これが小説家的鬼才脳……」
「え?」
思わず小さく呟いてしまったけれど、公女には聞かれずに済んだみたいで良かったわ。
そう思っていれば、公女の背後で私の眼下に広がる穴が目に入った。
今にも消え入りそうな、残りの魔法陣の光を見て、慌てて手をかざす。
「す、すぐにやります!」
決して自分の呟きを誤魔化そうとしたわけではないわ!
状況からの恐怖で、既にいっぱいいっぱいなの!
これ以上公女につっこまれたり、私には理解できない発想を披露されたら、疲労感で頭がパンクしそうだからよ!
集中する為にまずは目を閉じる。
手から魔力を放出し、穴の上部に宙を這うように広げうつ、穴の側面の岩と蓋をするかのように、繋げた。
次に繋がった岩から土を変質させるイメージで魔力を高めて魔法として発動させていく。
「頑張って。
大丈夫、成功するわ」
「『はい』」
まただわ。
場所が岩壁で閉塞されて反響したみたい。
声が二重になって耳に入る。
やっぱり反響した私の声は、幼く聞こえるのね。
頭頂部から背筋にかけて、冷気が漂う。
今は土蓋を作るイメージだったのに、何故凍土になっているのかしら?
「まだよ。
材質の凍土化が終わるまで、気を抜かずにしっかりと固めていくの。
土に籠める魔力を増やして……そう、それよ。
凍土は土に水を侵食させていくイメージで、最後に大きな氷を連想して材質を変化。
そうしたら魔法で作り出した土蓋内の密度を圧縮して……そう、上手ね。
もう少し……あと少し……そこで固めて魔力を練り上げて魔法を完成させて」
適度なタイミングとコントロールを指示する公女は、まるで熟練した魔法師のようだった。
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本日2巻の情報解禁をしても良いとの事でしたので、お知らせです。
2巻が!何と!11月10日に発売が決定しました!
カドカワBOOKSホームページにも、今日か明日くらいに情報が掲載されるとの事です。
多分あと1週間くらいで2巻のカバーイラストも公開になる……はず?
めちゃくちゃ綺麗に仕上げていただいてます!
自分の作品ながら、あのイラストは見る価値あり!
ぜひ見るだけでも見て下さい!
という事で、2巻の完成に向けてがんばります!→作業終わってません( ;∀;)
現在進行形で作業中…………終わるのか?!