「もちろんですよ」
「悪魔の仲間となったそなたが、何故ロブール公女に執着する?」
間違いなく教皇は、俺の想い人に執着を見せている。
チーム腹ペコのリーダーや、最近では平民となったヘインズ、そして間違いなく腐信者となったファルタン嬢……想い人の魅力が炸裂している!
「……チッ……負けてたまるか」
しかし想いと執着心だけは誰にも負けんぞ!
ドス黒く湧き起こる嫉妬心に任せ、ギリリと歯噛みして口中で呟けば、ふと隣から視線?
「……何だ?」
「……いや……」
視線の主たるミハイルに問うも、何かを言いたげな顔でそれとなく一歩後退したな?
「ふ、何をアイコンタクトしているのかわかりませんが、流石に王族と四公の直系を2人も相手にして油断などしませんよ」
にこやかに微笑んで警戒をしているところ悪いが、全く意思の疎通など取れていないぞ。
ミハイルが俺と教皇に、何か言いたそうな目を順序良く向けたが、何を言いたいのかさっぱりだ。
「それに私は悪魔の仲間になった覚えもありません」
「あら、冷たい言い方ね」
少しも気にした素振りもない悪魔が、茶化すように合いの手を入れる。
「私達は馴れ合うような関係ではないでしょう。
あくまで利害関係の一致で契約したに過ぎませんから。
そもそもまだ私の望みは叶ってもいないのに、仲間?
あり得ません。
叶えば、そうなるのかもしれませんがね」
「どんな契約を?
何故妹を狙う」
「どのみち、お2人は秘密にして下さるのですから、教えて差し上げますよ」
教皇の言葉は、やはり違和感をもたらす。
何故俺達が秘密にするなどと、確信をもって話しているのか。
思わず眉根が寄るが、教皇はそんな俺を気にも止めないようだ。
それにしても、やはり空気が重苦しいな。
「私には取り戻したい、大事な方がいるんですよ。
その方の蘇りに、公女の藍色の瞳をいただきたいんです。
ああ、もちろん公女は長らく虐げられてきた方ですし、痛みもなく、瞳を喪った後は私の方で丁重に面倒を見て差し上げるのも、やぶさかではありません」
コイツ、俺の想い人の眼球を奪う宣言したか?
瞬時に殺意が膨れる。
しかし教皇の話す言葉のいくつかが気にもなった。
蘇りに、藍色の瞳?
まるで喪った誰かを想い、その為に藍色の瞳を使うかのような……藍色の瞳の故人。
自分が王族故か、真っ先に思い浮かぶのは……ベルジャンヌ王女。
しかし教皇どころか、教会とすらまともに関わったような記録は無かったはず。
「それは無理な相談だ。
妹を誘拐しようとした事も含めて追及させてもらう」
「そうできると良いですね」
ミハイルの言葉に、造り物のような教皇の笑みが深まる。
何だ?
随分と余裕だな。
それにしても、先ほどから視線のような見えない何かが、体中に絡みつく錯覚が不快だ。
この場に何か仕掛けを作っているのか?
「ふむ、どうやら用意していた粗悪品は出てこれないようですね。
どうやら公女についていたあの影が、何かしたようだ。
ならば……」
……公女に影なんかついていたんだろうか?
ミハイルがロブール家の影をつけていた?
チラリと横目で見れば、ミハイルと目が合い、それとなく互いが互いの影を公女につけているのかと訝しんでいたと察し、やはり互いに軽く首を振り合う。
公女は既に王族の婚約者から外れて久しい。
もう、王家も影をつけていない。
粗悪品?
何の事だ?
教皇は自分の後ろにある、崩れた岩壁を見やり、そう告げた。
なんとなく冷えた空気がそちらから漂ってくる。
ミハイルも粗悪品が何なのかわからないらしく、訝しげにを見つめている。
教皇はそんな俺達を意に介さず、近くの壁に触れた。
するとどういう原理か、水滴が左右の壁を伝う。
通常の現象と違い、下から上へと昇っていく。
水滴は見る間に量を増し、幾筋もの水が上へと流れては、天井に吸収されてを繰り返しながら、量を増し、水筋が合わさって見える範囲の壁を覆う滝となった。
いつしか壁は滝のように下から上へと流れる水で覆われる。
ややあって、流れる水面に無数の魔法陣が現れた。