「ラビアンジェ……折角逃がしたのに何してくれてる……」
「チッ」
ミハイルの腹立たしげな言葉は、植物に対してだろう。
だが教皇が舌打ちして、植物と公女から距離を取った意味がわからない。
彼女の美しい藍色の瞳を狙っていたのではないのか?
「ラビ〜、オイラにも飲ませるジャ〜ン!」
植物はマイペースだな。
教皇によって乱雑に枝打ちされた枝も含め、全ての枝が細く伸びながら何又にも分かれ始めた。
かと思えば枝が幾本も折り重なっていき、女性がよくやる三つ編み風の束が幾つもできた。
紫緑色の葉がシャラシャラ鳴りながら、束に再び生える。
酒を催促するかのようにして、葉がピョコピョコ動き、更に音を重ねていった。
どうでも良いが、声の感じからしてコイツは雄。
俺だってまだ公女に出した事がないのに、甘えた声で植物が強請るな!
「ドレッド隊長ったら、上で開宴中の宴の気配を察知したのね。
ドレッドヘアも素敵。
さすがよ」
ドレッド隊長?
やはり公女とは知り合いだったのは間違いないようだ。
今までも俺の知らない所で植物は甘えてきたというのか?!
燃やすか?
ちょうど公女はそう言った後、ジョッキの中身を半分ほど、葉の上にぶちまけたからな。
葉から飲む仕組みかは知らんが、燃やすにはちょうど……。
不意にミハイルが俺の肩に手を置いた。
見やればドン引きした顔で首を左右に振る。
心の声がバレている?
「ふふふ、教皇も宴の為に仮装するとは!
やはりトップが率先して羽目を外してこその、無礼講!」
「……は?」
そんな俺達のやり取りなど、公女は意にも介さない。
言葉の内容は意味がわからないが、そのキラキラした笑顔は是非とも俺に向けて欲しい。
教皇も燃やすか?
「そんなとぼけたお顔をしても、誤魔化しきれておりませんわよ!
その格好!
それはそう、どこぞの国でとある時期だけ大流行りとなる仮装パーティー!
トリック・オア・トリート!
そう、つまりはハロウィンですのね!」
「……何を言っているのですか……」
教皇は先程とは打って変わって、心底理解できずにいる。
未確認生物を初めて確認したかのような、そんな表情だ。
間違いなく俺もミハイルも、意見は教皇と同じだろう。
もちろん俺は公女の素晴らしい発想に、いつでも脱帽して……。
不意にミハイルが再び俺の肩に手を置いた。
見やれば再度のドン引きした顔からの、やはり首を左右に振る。
またしても心の声が?
「頼むから、今は気持ちを落ち着かせてくれ」
ミハイルの菫色の瞳の煌めきの中に、苦痛が混じっている?
どうした?
瞳の透明感が変わってから、何とはなしに困惑しているのが伝わってくるが……。
そこでふとミハイルの祖父である、ソビエッシュ=ロブールの特殊能力を思い出す。
教皇の魔力に宿る魅了と同じく、ロブール家に時々現れるという固有スキルのような力だったはず。
俺が魔法呪に苦しめられた当初、移されたベルジャンヌ王女の離宮で見つけた日記に、その事が書かれていた。
確かその能力故に、ベルジャンヌ王女の婚約者から外すべきであったのだと……。
「またまたぁ!
いつの間にか化粧で塗りたくったらしき、艶めく褐色の肌!
背中に翼、そして隠してらしたであろうムキムキマッスルが、大ハッスルしてらっしゃいますもの!
さしずめヤンチャ系堕天使マッチョがテーマなコスプレとお見受けしますわ!」
「ヤンチャ?
堕天使……マッ?
え……ハッス……え?」
教皇は公女の意味不明度抜群の言葉にかなり戸惑い、戦意は完全に消失したのが見て取れる。
もちろんそこの植物以外に理解できる者は、ここにいない。
とりあえず想い人がとんでもなく楽しそうだから、何でも良いか。
「正にハロウィン!
んふふ、これで既に落ちかけている教会の神官達も、心置きなく堕天の道へと転がり落ちる事ができますわね!」
「……落ちかけ?
え?
ちょっ、公女、貴女本当にこの短時間で一体何をして……え?」
落ちる……堕天の道?
ハッ、まさかまた腐信者を増やしたのか?!
これ以上公女の信者を増やすのは、認可できかねる!
ハッピーハロウィ〜ン(≧∇≦)/
もう少し先ですが、そういう時期なので(´∀`*)