「わ、私の一存で……」
「ほう、公女を狙ったと?」
半ば強引だったけれど、私に付き合うと言ってついてきたジェナ。
半分は血の繋がる妹を庇うのは、兄の義務。
そう思ってジェナを背に庇って口を開けば、いち早いルス兄上の反応。
しかも同じ色のはずの瞳が、めちゃくちゃ仄暗い!
兄上ってこんな人だったかな?!
怖すぎるよ‼
「いえ、ジェナが一緒に遊びたいと言ったので……」
くっ、私は駄目な兄だ!
チラリとザバザバ泳いでいるだろう目で、後ろを振り向く。
ジェナ、そんなドン引きした目をしても無駄だ!
怖いものは怖い!
実兄から、このダメダメな異母兄を庇ってー!
ジェナに縋るような眼差しに切り替えれば、可愛い妹はため息を吐いて横に並んでくれた。
「……まあ、はい。
ルスお兄様にお似合いの、可愛らしい方を見つけたら、つい?」
「お似合い……俺と公女が……」
機転の利く可愛いジェナ!
巷で流行りの小説家であるトワの新作が出たら、私が直接並んで買ってくるよ!
1冊しか買えなかったら……その時は相談しよう!
それに争奪戦となっている、とある教会のとある朗読会への参加券も並んで獲ってきてあげよう!
1人分しか獲れなかったら……薔薇だったら譲るね!
「本当にそう見えたか?」
「「ええ(はい)!
お兄様(ルス兄上)にとってもお似合いよ(です)!」」
自信なげだけれど、ルス兄上は間違いなく気を良くしたみたい!
そう感じて、すぐさま取り繕えばジェナと被った。
「そうか。
そういう事なら…………今回は迎え討つ必要はないようだな」
んん?!
最後のボソッと小声で言った言葉が不穏!
迎えはともかく、討つの止めて!
私、無実です!
ハッ、そういえば私達3王子の婚約者候補を決定したと、王妃直々に告げられた時……。
『エメアロル第3王子』
『はい、ソフィニカ王妃』
『そなたは普通に接するように』
『普通?』
ルス兄上とジェナの実母である王妃は、翡翠色の瞳に憂いを……違うな?
呆れ?
いや、表情からして呆れを通り越して何かを諦めた様子。
王妃は私をひたと見据えて諭すような、どこか懇願するかのような口調だった。
あの時は戸惑いながらも内心首を捻ったけれど、絶対ルス兄上が原因に違いない。
今、確信した。
改めてお疲れの様子だった王妃の姿を頭に浮かべる。
黒紫の艷やかな髪を品良く1つに纏め、落ち着いた妙齢の艶やかさがあった。
見た目の若さを意識的に保とうとしている側妃とは違う。
『裏取引で、婚約者候補達を抱きこむような真似はせぬよう』
『う、裏取引?
抱きこむ?
一体どういう……いえ、はい。
成り行きに……んんっ。
婚約者候補の令嬢達とは、節度を守って普通に接すると誓います』
『よろしい』
なんて会話を王妃とした。
王妃は私の返答に満足した様子だったのが、印象に残っている。
ちなみに最近何かと増えた勉学の合間に取った短い休憩時間中、不意に王妃が訪れての出来事。
女官達も下げ、部屋には私達以外いなかった。
今思うと、あの時まで年長者である第1王子に婚約者どころか、候補が1人もいなかった事が何よりおかしい。
まだ十三歳という成人してない私や、婚約解消となったシュア兄上はともかくとして。
その上、3王子まとめての婚約者候補だとか、どの令嬢がどの王子と婚約するかも曖昧だというのは、絶対に何か裏がある。
そもそも令嬢達の家門が、そしてそれを牛耳る四大公爵家が、どうしてそれを許したんだろう?
確かに候補の令嬢達の中には一部、最近になって婚約を解消や破棄した者もいる。
つまり貴族社会では、場合によっては訳ありと称されるやつだ。
けれどコレには少し前、シュア兄上が良くない影響を学生達に与えて、学園内の風紀を乱した一件が起因したと推察している。
母上はロブール家の元養女に、全ての責任をなすりつけるような発言をしていたっけ。
ロブール第1公女との婚約が解消された日、人払いした私の部屋でヒステリーを起こしていた。
でもその話が本当だったとしても、シュア兄上は婚約者がいる状態だったんだよ?
よりにもよって婚約者の義妹に唆された、シュア兄上の方が問題だと思う。
ルス兄上が学園へ赴任したのも、シュア兄上によって乱れた風紀を払拭する為なんじゃないかな。
残念ながら微妙な立ち位置である第3王子の立場的には、母上の発言とあちこちで耳にした噂話から、色々推察するしかできないけれど。
私が早期入学制度を利用するハメになったのはこの事が理由みたい。
ちなみに今までに使ったのは諸外国の王族、それから四大公爵家を含めた高位貴族だったかな。
諸外国の王族は未成年の年齢差からみたい。
我が国の高位貴族の場合はお家事情からだったみたいだけれど、当主に就任する兼ね合いが殆ど。
私の場合はシュア兄上の問題を私で払拭する為だと思う。
シュア兄上がどこかのタイミングで学園に復帰した場合のフォローも入っているんじゃないかな。
胃が痛いよ……。