ブックマーク100件記念SSです。
しばらくの間カクヨムだけの投稿でしたが、お礼にこちらにも投稿します。
既にあちらの方で見ていただいた方には申し訳ない。
いくらか修正はしています。
しかしノリと勢い作品で、内容は薄々です。
許せる優しい方だけ先に進んで下さい。
「最近ヤバいんだ……」
僕はキャスケット。
愛称はキャス。
普段は手乗りサイズ。
その気になれば大きな岩のような大きさにもなれる、人々からは聖獣と崇められる力ある存在だ。
チャームポイントは白い艶々でふわふわのもこもこした毛もさることながら、この9つの尾も捨てがたい魅力だと思っている。
僕のずっと、ずうっと昔からの愛し子は今はラビアンジェって名前の女の子。
愛称はラビ。
ラビとの同棲生活も人の時間の中では随分長くなった。
楽しいし、こんな生活がずっと続いて欲しいと思えるくらいに幸せだ。
でもそんな生活の中、僕は自分だけでは堪えきれない窮地に立たされている。
もう、誰かに相談しなければ……くっ……とにかく堪えられない。
ぽかぽか陽気な陽だまりの中、人間が絶対に入りこまないような山頂近くの原っぱで眷族達がどうしたのか聞いてくる。
「聞いて!
愛し子に、愛し子に……変態が憑依するっ」
目をカッと見開き、眷族達に告げれば途端にザアッ、と木々や草花が揺れる。
僕の青褪めた顔と発言に動揺させたせいだ。
こうなる事はわかっていた。
眷族達に動揺をさせて申し訳ないとも思うんだ。
だけど……だけど!
「ううん、悪魔じゃないよ。
そんな生やさしい奴じゃない。
悪魔ですらも霞む。
それが変態だ……。
突然何かのスイッチが入ってラビに変態が、変態が憑依するんだぁぁぁぁ!」
昨夜を思い出して草むらに突っ伏し、恐怖にガタガタ震えてしまう。
するとビュウッとちょっとした旋風がいくつか固まって吹き荒ぶ。
ああ、ごめん!
また驚かせちゃった!
眷属達は口々に何があったのか聞いてきた。
僕はのろのろと顔を上げて彼らの優しさに縋る。
「昨夜の事だ。
僕はラビの前世の記憶にあるヨガ、猫のポーズシリーズをいつもの小さなテーブルの上でしていたんだ。
そう、うん、あれは気持ち良いよ。
オススメ。
ラビもキラキラした尊敬の眼差しで僕を見てくれるから、嬉しくて」
サワサワと優しく草花が揺れる。
眷族達も僕のぽかぽかした気持ちに感化されて嬉しそうに踊る。
「でもね、次の横たわった合蹠のポーズを取った時にラビが……ラビが、変態に憑依されたんだぁぁぁぁー!!!!」
僕は再び取り乱し、バッと2足立ちする。
頭に両手を置いてあの時の愛し子の変容した顔を記憶から追い出すようにぶんぶんと頭を振る。
眷族達も騒ぎ出し、辺りの草花は暴風に千切れ飛んだ。
『ああ、キャスちゃん!
何てキュートな姿なのぉ!
これは誘っているのね!
その腹毛は吸う物なのねぇー!』
そう叫んだラビの顔は恍惚としていて、目は潤み、鼻の下が少しばかり伸び、頬が上気していた。
正に変態が憑依した瞬間だ!
思い出して戦慄する僕の感情に感化された眷族たちが恐慌状態に陥って思い思いに飛び、駆け回る。
「しかも顔が変態なだけじゃない!
僕の体をガシッとロックしてあらゆる動物の急所である腹に、僕の腹毛に顔をボフッと埋めて!
……鼻からズヌォーッて……吸った、んだ」
あの時の感覚を思い出し、膝からガクッと崩れ落ちた。
ザワザワザワ……。
ああ、ごめん、眷族達。
怖がらせ過ぎて大気が震えてしまっている。
でも、でもね。
僕も怖かった。
腹毛が吸いこまれ、熱い鼻息が腹毛を、むしろ腹肉をブルブル揺らす度に……何かが、きっと僕の聖獣としての何がしかが喪われ、脱力していく感覚。
『あー、たまらん〜、お婆ちゃんはたまらんなあ〜、たまらんのぉ〜。
んふふふふ、至高よぉ〜、至高の吸い物ぉ〜』
体はもはや恐怖に力が抜け、されるがまま。
ベルジャンヌ……僕の、僕達の悲劇の主人は生まれ変わった異世界での86年間の人生に何があったのか……。
あの時輪廻の輪の中にまではついて行けなかった事が悔やまれる。
ただ、少なくとも昨夜のラビアンジェ……やっと巡り逢えた愛しい君のあの時のあの夜のひと時は……前々世よりもずっとずっと……今世でも1番幸せそうな……変態。
ああ、眷族達の慰めるような、労るような風が心地良い……グスン。