「ふむ……」
どうして私は目を覚まさなかったのかしら?
起きて荒ぶる魔獣達の魔力と、消えていく魔力。
全くもって、異様な雰囲気の学園。
極々近くで、こんな事態が起こっているのに気づかなかった?
その上、眠り続けていた?
あり得ない。
膝の上で眠るディアを、そっと撫でる。
やっと泣き止んだのだけれど、そんなに怖い妖怪だったのね。
それにしても聖獣ちゃん達が、未だに何か手を打った様子がないの。
学園を取り囲むようにして張られた、薄赤い結界のせいじゃない。
確かに認識阻害効果は付与されているけれど、この程度の魔法に聖獣ちゃん達が気づかないはずはない。
だとしたら、わざと?
少なくとも今世の私が気にかける人達の魔力が、たくさんの消失した魔力の中に紛れているのに?
聖獣ちゃん達が他の誰を見捨てても、私の気にかける人達を全員見捨てたという事?
そんなの考えられない。
だとすれば聖獣ちゃん達には、何かしらの関与があった。
もしくは、そもそもこの事態に気づいていないと考えるべきね。
けれどそんな事ができるのは、同じ聖獣でないと難しいわ。
だとして、そんな事ができるとすれば……。
「アヴォイド……何を考えているの?」
口にした途端、灼熱が体を駆け巡る。
不用意に名前を口にした罰?
「ふざけないで。
今度ばかりは見過ごせないわ」
ここ最近、度々与えられた痛みですもの。
無視するのには慣れた。
あの夢といい、今のこの事態といい……。
「祝福名も誓約も、諸刃の剣よ?」
祝福名と誓約にこめられた、聖獣アヴォイドの力を感じる事へと意識を集中させる。
力の根源を探っていく。
こんな事、ベルジャンヌの時にもしなかったのに。
私の優先順位は常に聖獣ちゃん達が上位。
それは今も変わらない。
だからアヴォイドにも干渉せず、せいぜいが私に痛みを与えるだけだと思って罰を甘んじて受けいれてきた。
けれど同じ聖獣ちゃん達の中にも、私には優先順位がある。
愛情に優先順位をつけるのはおかしい?
けれど仕方ない。
今の私の1番はキャスケット。
この国の主となった時、誓約と引き換えに無理矢理契約したアヴォイドではない。
もしアヴォイドがキャスケットを傷つけているなら、止めるわ。
それにさっきの夢。
もしアヴォイドが前世の旦那さんに何かしていたのなら、私はアヴォイドが望んでいる何かを、躊躇いなく潰しにかかるわ。
旦那さんをキャスケットより優先する事は……きっとしないと思っているにしても。
そう、迷うような選択でもない、わかりきった事……。
ふと、自分の思考の中で何かが引っかかった。
アヴォイドは初代国王と契約した聖獣。
わかりきった事よ。
けれど、どうして魂となって今も存在しているの?
王族限定で祝福名を与え続けるのは何故?
そこで少し前、何の気なくだけれど考えた事が頭をよぎる。
私、悪魔についても同じように考えなかったかしら?
実のところ、悪魔っていつから存在していたの?
悪魔に対抗できるのは聖獣と、聖獣の契約者。
つまり悪魔の力と聖獣の力は根本的に違う。
人の魔力と聖獣の魔力は非なるもの。
人の魔力と悪魔の力は異なるもの。
非なるものは、どうして異なるものに対抗できるのか……。
「あらあら……」
思わず導き出した答えを、口にしそうになるのを自制する。
つまり悪魔は元々……人間に近い?
もしくは……人間だった?
『ベルジャンヌよ。
この国の最古参の聖獣である妾であっても、あの悪魔を滅ぼせぬ。
アヴォイドも、ヴァミリアも同じであろう。
けれどこの国の始祖、妾の初めての契約者と同じ素養を持ったそなたであれば、或いは……』
今は蠱毒の箱庭と呼ばれる場所。
そこでベルジャンヌだった私は、聖獣ピヴィエラの最期を看取った。
ピヴィエラが寄り添う青銀色の竜は、夫であるラグちゃん。
暴れに暴れた末、やっとの事で私との契約に同意して聖獣へと昇華した。
この時は意識を失っていたわ。
ピヴィエラは赤紫色の瞳から魔獣の赤い瞳に戻っても、白にほんのり金が輝く体が傷ついて、所々血が滲んでいても綺麗だった。
昨日、投稿して暫くしてから気づいたのですが、【稀代の悪女】3巻のカバーが公開されてましたΣ(・∀・;)
慌てて昨日の投稿に前書きつけたものの、見てない方もいると思うので、今日もお知らせです。
活動報告の方にカドカワBOOKS公式Xのリンクを貼っているので、よろしければご覧下さい。
今回のカバーはロブール兄妹です!