「ええ。
気配を隠すのが上手くても、その臭いは隠せないわ。
ねえ、それよりも魔法の実験。
したいと思わない?
あなたの欲する王族。
それも偏りのない全属性に、かなりの魔力量を内包していた体」
「そうね。
でも何が狙いかわからないのに、その話に乗るのはどうか……」
「ふざけるな!
公女!
お前は我が国の国王に何をするつもりだ!」
あらあら、騎士団長が突然のオコ変化ね。
けれど今は私も、恐らくジャビも話を遮られるのを良しとしない。
「アッシェ公。
黙りなさいな。
スリアーダに言われるがまま、権力を欲して加担した馬鹿な男の子孫」
体を駆け巡る熱感の質に殺意を感じ始める。
それを自身の魔力と、以前にもらった国王の魔力の残滓を使って抑えにかかる。
国王の魔力は、自分の魔力でコーティングして体内に取り置きしておいたのだけれど、なかなか良い効果ね。
少し灼熱感が引いたわ。
「な、に……」
「私の最期の言葉を知っていながら、未だに私が誰かも理解できない愚か者。
お前に、お前達アッシェの血に連なる者達に、私を止める権利など端からない。
もちろん、それは全ての王族も四公も同じなのだけれど」
言い淀む騎士団長に、いつもの淑女たる微笑みを剝ける。
「ふふふ、少しは理解した?
私は今、各方面にとっても怒っているの。
だから私が望むまま、好きに動くわ。
今の私は、思春期真っ盛りのカム着火ナンチャラ女子ですもの」
ふふふ、驚愕しているわね。
私のオコもなかなか良い働きをしているんじゃないかしら!
「カム……何?
何故そんな得意気な顔を?
いや、それはまあ……それより、まさか公女は………………貴女は何を望む?」
「全てが終われば、わかることよ」
冷たく言い捨てて、改めてジャビに向き直る。
「ジャビ、あなたの真の狙いの1つはわかっているの」
「ふうん?
何か聞いても?」
「ベルジャンヌ王女の遺灰。
つまり、肉体を得る事」
ローブの下の目が、私を睨みつけている気がする。
「そこらの遺灰で騙すなら無駄……」
「馬鹿ね。
一緒に取りに行けば良いでしょう?」
「……どうして急に協力を?
そもそも君、まさかあの王女の生まれ変わりなんて言わないわよね?」
「さっきアッシェの子孫に言ったじゃない。
各方面にとっても怒っているって」
そう言って、袖をめくって腕を見せる。
「「「「?!」」」」
白銀の聖印を露わにすれば、前々世の私を知る人達が息をのむ気配。
けれどジャビは口元を愉悦に歪めて、全く違う反応を示す。
「くっくっ、あっはははは!」
あらあら、声の質が男性のダミ声になったわ?
「そうか!
お前は魂をあの聖獣に呪われたか!
これはいい!
あっはははは!」
言いながらツカツカと私の前に来て、抱きつくように私の首へ腕を回す。
ムムッ、悪魔特有の体臭。
亜空間収納にある鼻栓を鼻の奥に転移させる。
キャスちゃんとディアの抜け毛を、日夜コツコツ集めて作っておいた特製の鼻栓よ。
他にも前世の羊毛フェルトのようにして、針でチクチク刺してできるぬいぐるみも作ってあるの。
抜け毛とはいえ、聖獣の毛ですもの。
悪魔の臭いを完璧に遮断して、狙った通りラベンダーの香りを届けてくれているわ。
「それはそうだろう!
せっかく悪魔からこの国を守ってやったのに、悪女の汚名を着せられたんだ!
挙げ句、転生しても最古の聖獣に聖印て名前の呪いを受けた!
転生して今度こそまともに血の繋がった家族ができても、また虐待!
婚約者だった王族と四公の子孫共には、また無才無能な性悪女と罵られて悪評をばら撒かれる!
ブチギレ聖獣を支配して、この国を滅ぼしたくもなるはずだ!」
ジャビの最後の言葉以外は、その通りね。
幼いお孫ちゃん達はベルジャンヌだった当時を知らないから、とっても戸惑っているわ。
他の人達の顔色をチラチラと見て、顔色を悪くさせた。
ジャビの言葉が真実だと悟ったみたい。
当時の話を伝え聞いていただろう王妃と騎士団長は、羞恥と申し訳なさ、けれどどうしたら良いのかすらわからない……色々複雑な心模様を含んだ瞳で視線を彷徨わせる。
当時の光景を目の当たりにしてきたリリは、かつての歯がゆさと憎しみを思い出したように、騎士団長と王族を侮蔑の目で見やる。
けれど最後は全員、最初からそうだったレジルス第1王子のように私を見た。
縋るような3つの眼差し、場合によっては私を制圧すると覚悟を決めたような1つの眼差し、私の決断に委ねる2つの眼差し。
どんな眼差しであっても、私は好きにするわ。