A Notorious Villainess Enjoying a Life of [Talentless and Incompetence] in Her Third Life – Chapter 499

「ぐっ」

「ヘインズ！」

俺の背中を蜂型魔獣の毒針が掠め、思わず呻いちまった。視界の端っこで、同じ騎士科のウジーラ嬢の注意が逸れそうになるのが映る。

「注意を逸らすな！

俺は平気だ！

蜂に紛れてクイーン・ビーが攻撃してくるぞ！」

剣を構え直し、襲ってこようとした普通の蜂型魔獣の毒針攻撃を剣でいなす。

俺の方へ注意を逸らしそうになったウジーラ嬢は、クイーン・ビーに俺と同じく背後から襲われる。けど間一髪、俺の注意喚起が功を奏した。

「チッ」

――キン！

舌打ちしたウジーラ嬢が、クルリと体を半回転。毒針を剣でなぎ払う。

「魔力補填できました！

避けて下さい！」

同じ学年のＤクラス。魔法具科で……名前何つったか忘れたけど、男子生徒が研究室から持ち出した魔法具を発動……。

「『神妙にお縄につけぃ』！」

捕縛型魔法具らしく、魔力を魔石に補填して蜂に投げつけた。

更にもう１匹の蜂にも同じく。

「ナイスコントロール！

さすが、ロブール公女が改良した捕獲用魔法具ですね、先輩！」

色めき立つ魔法具科の、多分１年Ｄクラスの女生徒。

「へへっ。

だな！」

はにかむ魔法具科４年生。

「「「何だ、あの個性的な起動ワードと青紫色の縄」」」

ザワつく外野。じゃなく、来賓と高位貴族の団体。

「「なるほど、公女か」」

ウジーラ嬢が納得してる意味がわかんねえ。

亜麻色の髪した神官も同じタイミングで同じ事言ってたのが、もっと意味がわかんねえぞ。

教皇の後ろで控えてる上位神官だよな？

顔だけは覚えてる。

「……」

俺は無言でドン引きだ。

何でどっかの師匠が使ってるような鞭と同じ色の縄が、蜂をどっかの破廉恥小説家が得意な亀の甲羅みたいに縛り上げてんだよ！

しかも縄がブルブル震えてるオプション付きだ！

あの破廉恥小説家は何を考えて、そんなもんつけた?!

破廉恥な意図を感じるが、俺の考えすぎか?!

大体、起動ワードのチョイスがおかしいだろう?!

薔薇小説のイラスト描いた時に読まされた、破廉恥小説のセリフだろうが?!

女城主の命令で異国の黒髪奴隷を捕まえる時、配下の奴が叫んでたやつ！

こっちは命張ってんのに、本人不在で緊張感を霧散させんじゃねえ!!

あの薄赤い結界が現れた途端、生活魔法すら使えなくなった。

その上、凶暴化して攻撃能力も高くなってる魔獣達が校内を暴れ始めたんだ。

４年生の騎士科の学生達が一丸となって応戦しながら、控え室に固まってた来賓や高位貴族の面々を避難させようと動いた。

来賓や高位貴族を避難させるよう頼んだのは、ミハイルだ。

俺も含めて学園祭での４年生は、売り場をできるだけ周る。

ウジーラ嬢達も含めて、開始の時を待っていた。

控え室は校内の奥まったとこにあったからか、この時はギリギリ魔獣が入りこんでなかったからな。

ただ例年とは違った結界なのかと訝しんでたくらいの混乱だった。

そんな時、ミハイルが飛びこんで来たんだ。

本当はミハイルが来賓や高位貴族達を引き連れて学園を出るのが１番良い。

何せ四大公爵家の次期当主で、第１王子から直々に命令もされたみてえだったしな。

でもやらなきゃならねえ何かがあるとかで、ウジーラ嬢に指揮権を与えて、危険度Ａの魔獣が闊歩してるって説明して、どこかへ向かった。

ミハイルがウジーラ嬢を選んだのは、大公殿下を父親に持ってて、辺境を守る特別な役目のある侯爵家が生家だから。

その後は騎士科や剣に覚えのある高位貴族達で陣形を組んで、学園から退避する事になった。

そういやフォルメイト嬢が校内放送で、避難を呼びかけるって言ってたな。

未だにアナウンスがねえけど、何かあったのか？

騎士が１人、護衛についてるって話だったけど。

でもここからが俺達には試練の連続。

騎士科や高位貴族の中でも本格的な魔獣討伐を経験してる奴らはともかく、そうじゃねえ奴らはすぐに足が止まる。

神官達も魔法が使えなきゃ、非力なだけの人間だ。

剣に覚えがあっても、護衛も含めた実戦を経験した奴はほぼいねえ。

騎士団長や辺境地を守る親を持ってて、否応なしに実戦させられてた俺とウジーラ嬢くらいだろう。

移動する中で、１人、また１人と犠牲になってった。

危険度Ａの魔獣ばっかだし、色々経験不足もある。

剣技だけでどうにかすんのは無理があったんだよ。

それでも今の騎士科の学生達は、剣を扱う者として弱きを守る事に信念を持ってる。

我先にと逃げる奴はいなかった。

そもそも春先からこっち、高飛車になってた高位貴族達は１度、鼻っ柱を折られてる。

性根を完全に挫かれた奴の中でも、特に４年生は時間的な要因で挽回できない奴らも多かった。

退学や休学した学生は、それなりにいる。

４年生で騎士を目指してた奴の、３割は消えた。

だから今、残った騎士科の４年生はウジーラ嬢のようにずっと公正な目を持って誠実にやってきた奴。

根性を叩き直されて後がなくて死に物狂いな奴。

このどっちかだけだ。

俺みたいに平民落ちして騎士は諦めたけど、別の職へ転身の目処を立て、ひとまず卒業を目標に学園へ通う学生は、正直いねえ。

騎士科は今さら変更できねえから、そのままにしてる。

まあ俺は俺で、やたら強い師匠に根性叩き直されたけどな。

守らなきゃならねえ人間がいる内は絶対、逃げねえ。