「くっくっく。
一応、義妹だったのに冷たいんだな」
「あらあら、もう猫を被った声と口調は止めたのね。
だってソレ、もう生きていないじゃない。
私の義妹だったシエナは、とっくに死んでいるわ。
首から上と下を繋げてキメラ化させたのね。
下はルシアナの物?」
「ああ、面白そうだったからな」
「……ぎゃっ」
呆然として床に転がるシエナの体に、ジャビが干渉する。
するとシエナは短く呻いて、お腹を庇うように押さえた。
実験体として用済みになったのでしょうね。
シエナの中、正確にはルシアナのお腹に埋めこんでいた、異なる力の根源。
それを破裂させた。
「……あ、あああ!
痛い!
ジャビ!
何をしたの!
あああああ!」
一拍置いて、シエナは痛みから逃れるようにゴロゴロと転がる。
「残念な子。
魔法も出せない、自由も利かないポンコツな老体を自ら捨てたのでしょう?
お母様の高い魔力を宿らせた体を奪って、魔法が使えて、老体よりはずっと動ける体を手に入れた。
けれど結局は、死体同士をツギハギしただけ。
違う体だから当然、拒絶反応も出ているわ。
うまく接合できていないのよ。
痛みを感じているから、神経だけは繋がっているのね。
けれど魔力が上と下で、上手く循環していないわ。
恐らく後づけで、ジャビの魔力塊をお腹に埋めこんだのね。
その力で、シエナがあたかも魔法が使えるように見せかけているだけ」
「相変わらずの分析力だ。
女の腹に俺の力をこめた魔力塊を埋めこんだのも、俺の新たな体を孕めるかと思ったんだがな」
「……ああ、番わせるって事?」
「試みたが、結局失敗だ。
第2王子に宿る、忌まわしい聖獣の力が許さなかったらしい。
全く自我のない無垢な胎児の体なら、乗っ取るのも容易い。
第2のベルジャンヌの体が手に入れると踏んだのに、期待外れだ」
「……そう」
ベルジャンヌの母方チェリア家の血が宿った体がルシアナ。
平民混じりで薄くなったとはいえ、四公と王家の血も混じったシエナ。
確かに2人の体を繋いで、王族との間に子供ができたなら……。
「無駄な実験だが、暇潰しにはなった」
「それで?
今度は先々代の国王のように、魔法呪にでもするのかしら?」
「まったく、無才無能の皮を綺麗に被っていたという事か。
逆に周りの戦意をことごとく削ぐくらい、無才無能を演じきっておいて、実際は前世と同様に有能有才だったんたからな」
私にとっては前々世の事なのだけれど、もちろん訂正もせず黙っておいた。
「前世ならともかく、今は王族より格下の四公家の血筋。
にもかかわらず金環を宿す瞳といい、王族の色を纏うとは。
本当に、お前の強運が羨ましい。
いや、妬ましい。
俺が手に入れたい完璧な体に最も近い体を、よりによってまたお前が手にするとは。
どうせなら、そこの無能な第2王子と番ってみないか?
俺は理想の体が手に入る。
お前はこの国の実質的権力を握り、ベルジャンヌの汚名をそそげるチャンスを得る」
「そんなに上手くいくと、本気で考えているの?」
「そうだな。
今のお前を見る限り、失敗しそうだ。
どれだけの聖獣を従えている?
ベルジャンヌの比ではないな。
ああ……本当に妬ましく、憎らしい。
この聖獣達が張った結界も、もう俺では解けないじゃないか。
それに生者を全員、結界から出して何をするつもりだ?
お前は俺の味方ではない。
互いに目的は別にあるだろう。
何より忌々しい、あの白い花びら。
せっかく俺の力で正気を奪って暴走させたのに、魔獣達の魔力を吸って消滅させている。
引っこめてくれないか」
「魔獣達を一掃したら、自然と消えるわ。
場を整えるのは私に任せるのでしょう」
「だったら国王の体はどうした?」
「結局、蛇ちゃんの胃で溶けてしまったわ。
けれど、ほら」
ピケルアーラが放送室の前からいなくなる時、国王の体から彼以外の魔力を分離しておいた。
分離した魔力は悪魔の魔力が6割、リリの魅了が変質融合した側妃の魔力が4割といったところね。
手の平に乗る大きさまで圧縮した、赤黒い魔力の球体よ。
「せっかくの悪魔の魔力ですもの。
それに本来の魅了の力を変容させた魔力も混じっている」
ずっとけたたましい叫び声を上げていたシエナに近寄る。
「あああ!
痛い!
ああっ……ゲホッ、ゴホッ、ヒッ、嫌!
んんっぐぅ」
シエナがちょうど上を向いて叫んでいたから、嫌がるのを無視して口の中に国王から取り出した魔力塊を突っこんだ。
書籍版3巻が8/9(金)に発売します!
詳しい事は活動報告に書いてあるので、よろしければご覧下さいm(_ _)m