「悪魔は異なる者……スリアーダは教皇が悪魔の正体を知っていると考えていた。
教皇も否定していたけど、口調からは多分知ってると考えて間違いない」
「それにスリアーダが聞いた悪魔の正体話を、馬鹿エビアスの魔力がどうとかってすり替えてた。
あの意地が悪い顔は、どう見たって知ってるけど言ってやらないっていう顔だったね」
昔から何かと関わる教皇は、とんでもなく底意地が悪い。
キャスの言葉に頷くしかない。
金を渡せば黙る分、国王やスリアーダより御しやすい人間ではあるけど。
「それに先代国王が悪魔に取り憑かれたという話」
「そう言えば死ぬ間際、アシュリーを見てヒュシスって言ったんだってね」
「キャスは知らなかったの?」
「僕は先代国王との契約が切れた瞬間、一目散に逃げたから。
あんな歪んだ聖獣契約を結ばされるなんて、二度と御免だったんだ」
「どれも初耳な話ばかりだった。
流行病については薄々気づいてたけど、教皇はエビアスと先代国王の魔力に含みを持たせてた。
どちらにしても、ヒュシス教の教皇のみに口伝で伝わる情報も含めて、教皇が満足するだけの金なんてない。
精神に作用する闇魔法を使うにも、教皇は自分の守りに特化した魔法を念入りに習得してる。
時間もないから聞き出すのは無理か」
「そもそもあの守銭奴が、全ての情報を正しく伝えるなんて有り得ないよ」
「となると、国王や真の王太子しか辿り着けない情報に期待するしかないかな」
「うーん……でもベルがその情報に近づくのは……」
「わかってる。
国王が私に王太子教育を受けさせたのは、私を王太女にする為じゃない。
エビアスの影として、私の一生を利用しつくして終わらせる為だ。
私が王家の真骨頂的な情報を入手する術は、きっとないよ」
「それにベルは国王に、王家の情報を探るのをベルの真名で禁じられているでしょ。
今回みたいに偶然知り得た情報以外、ベルが探そうとしても認識できないから、見つけられない可能性が高いよ」
「そうだね」
私は実の母親であるアシュリーを国王から引き離した。
対価として国王に、自分の真名で縛られる事を選んだ。
真名は王家に祝福を与える聖獣が与える、祝福名を含む名前の事。
ピヴィエラの話を聞くまで、その聖獣の名前は知らなかった。
もしかしたら国王も知らないんじゃないかな。
今はピヴィエラの告げたアヴォイドが、祝福名を与える聖獣だと直感してる。
でも最古の聖獣は死んだか、現在も姿を見せて四公に縛られているとされている。
アヴォイドは他の聖獣とは違う、特殊な役割を持った聖獣なのかな?
私も含めて王家の嫡子は、母体に宿った際に祝福名を与えられる。
その後、生まれた嫡子に親が名前を付けると真名となる。
私の真名なら、ベルジャンヌ=イェビナ=ロベニアだ。
祝福名は生まれた時から既に知っている。
言葉を話せるまで成長した頃、両親あたりが質問するんじゃないかな。
私みたいなケースは特殊だろうし。
ただし国王が王家の嫡子を真名で縛る場合、祝福名の他に、ある物を嫡子が自主的に捧げなければ縛れない。
それが嫡子自らで定めた花。
その花に嫡子に宿る祝福の力を混ぜ、祝福花として具現化し、国王に捧げる必要がある。
普通は王族が王族印を決める際、嫡子は知らずに国王へ捧げている。
けど私は国王が私の存在を消したと思っていた3年間で、ピヴィエラからはベルジャンヌという名前に祝福を受けた。
更にキャスケットとは正式な形で契約をしている。
だから国王と対面する前から、白のリコリスに祝福の力を混ぜて具現化もできていた。
国王がリコリス=赤色という固定観念を持っていたのも手伝い、国王の目を欺けたのは僥倖と呼ぶべきだったのかもしれない。
国王は私の定めた花は赤のリコリスだと思っている。
実際は白だ。
他の四大公爵家は歪んだ聖獣契約をした上で、国王に忠誠を誓う。
だから不自然なのに、自然に見える形で国王は聖獣の主になってしまっている。
ピヴィエラ自身は、意図していなかったと思う。
ピヴィエラによって英才教育を施された私は、聖獣達を王家と四大公爵家から解放する唯一の可能性に気づいた。
キャスにも、誰にも教えていない。
下剋上式に聖獣を解放する力技だ。
チャンスは1度しかない。
今は時期を見ている。
私には少なからず守る者がいるから、彼らを危険から遠ざけてからでないと、実行できない。
母親のアシュリー。
偶然の縁で繋がったリリ。
本当は従姉妹のシャローナ。
そして私が知る、全ての聖獣達。
婚約者のソビエッシュは公子だし、瞳の力も十分コントロールできるようになった。
もうすぐ学園も卒業するし、もう良いかな?
ただ、全ての聖獣の解放となると……やっぱりロベニア国建国から遡って、全ての疑問を解く必要がある。
ポチと一緒にいた猫。
あのキラキラと月に煌めく菫色の瞳を見た時から、特に強く思い始めた。
アヴォイド……私の生に初めて祝福を与えてくれた君も、自由にしたいんだ。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
これにてベルジャンヌ視点は終わりです。
元々ラビアンジェが知っていた情報に加え、ミハイル達が関わって得られた過去の情報。
そこに着目下さると、今まで撒き散らした伏線を読者様で回収しやすくなるかなと(*´艸`*)
次話からはまた別視点となります。
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まだの方でよろしければ、ご覧下さいm(_ _)m
短編なのでお時間はかからないかと!
【タイトル】
殺意強めの悪虐嬢は、今日も綱渡りで正道を歩む ※ただし本人にその気はない
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