「ベルジャンヌ様、ごめんなさい。
お祖父様は……」
馬から1人で降りたロナ。
その申し訳なげな表情で、チェリア家当主は娘のアシュリーを手放すと決めたのだろうと悟る。
ロナに言伝でも頼んだのかな?
「来ないとチェリア伯爵が直接言ったの?」
「いえ、夜中にお祖父様とお父様が話しているのを……」
なるほど。
ロナの独断か。
つまりロナは現当主と次期当主の会話を盗み聞きした?
「途中から、お姉様が来てしまって……だから……」
どうやら間が悪く、盗み聞きはミルローザも……。
「お姉様は叔母様を見つけたから迎えに行くという、お祖父様達の会話に割って入ってしまって」
きっと乱入したんだろうな。
ロナの姉は感情の起伏が激し……いや、豊かな方だから。
「お姉様はチェリア家が没落しかけているのが、全てアシュリー叔母様のせいだと思っているから……」
結局、ロナ姉妹は、どこまで知ったんだろう?
少なくとも今まで、私がロナ姉妹と血縁上では従姉妹だったと知らなかったはず。
「チェリア嬢。
ベルにちゃんとした説明をするんだ」
馬を木にくくりつけたエッシュが、ロナに補足説明を促す。
そもそもエッシュは、どうしてロナと一緒に?
馬で駆けて来るなら、それなりに目立ったと思う。
国王は私とエッシュの婚約を認める代わりに、私達が表立って2人で会う事を禁じている。
もちろん学園でも。
エッシュが私の婚約者となる事で、私がロブール公爵家の後ろ盾を得たように思われる事がないように。
そう釘を刺していた。
私の魔力量もさる事ながら、聖獣キャスケットと契約している。
王族としての権力が、エビアスから私へ分散する事を防ぎたいんだろうな。
魔力量も聖獣契約も、国王は誓約魔法まで使って秘密にしつつ、制限もかけているのに、安心できないらしい。
もちろん国王だけでなく、スリアーダもそうみたいだ。
だから私とエッシュの不仲説を、噂として積極的に流してもいる。
エッシュの父親であるロブール公爵は……静観状態?
ロブール家の特徴かな?
国政にも領地経営にも興味がなく、だから何かに執着する事なく、淡々と公爵業務をこなしているように見える。
「は、はい。
お姉様は、ベルジャンヌ様が叔母様を偶然見つけて知らせたと思っています。
叔母様を再び邸に迎えるのは反対だと」
「ロナは何を聞いたの?」
「私は……その……」
チラリとエッシュの顔色を窺う。
「チェリア嬢は、ベルと自分の関係を知ったみたいだ」
「な、何で……」
あ、エッシュが瞳の力を使ったな。
ロナはエッシュにも、私達の関係を教えていなかったみたいだ。
ホッとする。
そして、どうして私は今、ホッとしたんだろうかと内心首を傾げた。
ロナが身の丈に合った情報管理ができているとわかったからかな?
それとも私の情報を平気で売ったり洩らしたりするような、他の人達みたいな事をしなかったから?
「ベル。
残念だけど、口封じしよう」
「そんな?!」
エッシュの短絡的な言葉に、ロナが狼狽える。
エッシュの顔つきを見るに、本気だね?
「エッシュ、私はそういうのを望まないよ。
ロナが私の暗殺をするなら話は変わるけど」
「あ、暗殺?!
そんなのしません!」
エッシュに続き、私の言葉にもロナはギョッとする。
普通の貴族令嬢は、暗殺とは無縁だからかな?
「庇うのは、血縁だから?
それとも……何か想い入れでもある?」
「んー……エッシュ、面倒臭い。
想い入れとか、よくわからないな。
何を意図して、そんな事を聞くの?」
「……ベル、私はベルの婚約者だよ?」
「うん?
そうだよ?
そもそも、どうしてエッシュまで来たのかな?
何かあったのなら、手短に話して。
今は色々と忙しい」
エッシュの遠回しな言い方に、今度こそ首を傾げながら取り止めのない会話を切り上げるべく、用件を尋ねる。
「……やっぱり私達の婚姻をもっと早めて、ベルを隔離して……チッ、国のトップが邪魔だ……」
「エッシュ?
ブツブツ言うだけなら、次のお茶会で聞く……」
「あの!
お姉様がエビアス王太子に、告げ口してしまったんです!」
私の言葉を遮って、ロナが叫んだ。