A Notorious Villainess Enjoying a Life of [Talentless and Incompetence] in Her Third Life – Chapter 586

「下の孫娘が入学して以来、チェリア家からは何度も貴様に謁見を申請してきた。

娘のアシュリーを、諦めていなかったという事だ」

私への怒りを顕にした国王の表情が、僅かに曇る。

けれどそれはほんの僅かの時間。

すぐに冷たい憎しみへと変わる。

国王の中で昂っていた感情が、少し落ち着いたのかな？

「なのに今日、チェリア家は当主交代ばかりか、前当主となったアシュリーの父親自ら除籍を申し出た。

貴様が流民を自国へ返したこのタイミングでだ」

「少なくとも私は、チェリア家が私に謁見を申請していた事は知らなかったよ」

「いや、貴様は気づいていながら余と、スリアーダが申請を握り潰すのを黙認していたはず」

「だから？

この国の国王と王妃が申請を握り潰したのに、何の取り柄もない、無能だと称される王女に何ができると思ったの？」

「アシュリーの父親に、今になって何を言った？

アシュリーは今も、そこの小屋でお前が仮死状態にして留めておるのだろうな？」

昔から小屋に悪さしようとしてきたスリアーダやエビアスのお陰で、防犯対策だけはしている。

もしかして国王は、火をつけても小屋から誰も出てこないから、やきもきしてたのかな？

普通に考えれば、中にいるだろうアシュリーは焼死する。

もちろんアシュリーの体にも保護の魔法はかけている。

国王はその事も知っているから、腹いせに火を放てたんだろうけど。

「アシュリーが君に宛てた手紙がある」

「何を言って……まさか貴様、アシュリーを仮死状態から目覚めさせたのか？」

僅かに黒目が大きくなる。

以前に一度、私がアシュリーを目覚めさせた時、アシュリーが錯乱した事を国王は知っている。

泣き叫ぶアシュリーを見て、私がすぐに仮死状態に戻した事も。

無言で頷けば、私への憎しみの中に……恐れが加わった？

「…………アシュリーは自分から去ると……余から去ると……いや、違う。

余は……そうだ、貴様だ。

貴様が唆した……そうであろう……そうに決まっておる」

沈黙した後、正解にたどり着いた国王。

けれどすぐに誤った答えを口にする。

「君がアシュリーに何をしたのか、あえて聞かない。

けど私が預かっている手紙には、アシュリーが君に用意した答えが書いて……」

「渡せ」

私の話を遮った国王は、同時に私の胸ぐらを掴む。

「早く渡せ！」

必死だね。

冷めた気持ちでそう思いつつ、国王に交渉を始める。

「その前に一応聞くけど、チェリア伯爵……元伯爵かな？

貴族ではなくなったみたいだし？

君、何かしたの？」

「……アシュリーが側室である事を話したからな。

今頃、死んでおる。

全て貴様が不必要な行動を取ったせいだ。

アシュリー＝チェリアは、行方不明のままでいなければならぬ。

国が揺らぐ」

手紙の存在が効いたのか、国王はアシュリーの父親を殺した事を躊躇いがちに告げる。

国王は自分の返答次第で、私が手紙を渡さないと思ったんだろうか。

それにしても、国が揺らぐ？

当時の王太子妃候補だったとは言え、たかが一介の貴族令嬢が失踪しただけで？

気持ち的な後ろめたさがあっただけではなく、他に何かがあるという事かな？

確かアシュリーが行方不明になったのは、国王が王太子だった頃。

当然、私はまだアシュリーの腹に宿ってすらいない。

……あれ？

もしかして初めにアシュリーの存在を闇に葬ったのは、私の実父だった？

息子の婚約者を無理矢理襲って妊娠させたのは、確かに醜聞だ。

けど先代国王は、かなりの功績を残している。

加えてアシュリーは王太子の婚約者であって、妃ではなかった。

歴代国王の中には、王族の婚約者を国王の側妃や側室に迎えた事例も存在する。

さすがに息子の妃を迎えた事例は、なかった気がするけど。

まだ私が気づいていない事が、アシュリー＝チェリアの失踪に隠れているのかな？

「貴様はアシュリーを流民達に紛れさせ、父親へ引き渡そうとしたのであろう。

だが残念であったな。

影がチェリア家の孫娘共々、遺体すら見つからないよう始末している頃だ。

アシュリーをどこへ隠した。

よもや昨日今日知りあった流民に実の母親を、長らく貴様が守り続けた、世間知らずの貴族令嬢にすぎない母親だけを任せたりはできぬはず」

「……孫娘？」

私が無言でいた事に焦ったのか、国王は喋り続ける。

アシュリーは問題ない。

リャイェンは三大部族長の息子という肩書きと、部族間の紛争を収めて国そのものを発展させられるだけの材料を揃えている。

ピヴィエラの生んだ卵が孵化すれば、中にいた子供もアシュリーを守ってくれる……多分。

卵の殻越しにお願いだけはしてみたから、ここは希望的観測だけど。

だから気になったのは、孫娘という言葉だ。

ロナ姉妹の、どっちだろう。

「そうだ。

スリアーダが狙っていた方の、チェリア家の下の娘。

スリアーダがエビアスと引き合わせようと呼びつけ、共に登城していた。

結局エビアスが何を思ったのか、流行病に触れた娘だとして謁見は中止しおった。

それ故、帰りの馬車には祖父と孫娘が揃ってしまったであろうな」

つまり国王は、スリアーダがロナをエビアスの側室にしようとしたのを知って、わざとロナも殺そうとしたのか。

一応、スリアーダは君の正妃だよね？

法律上では正式な妻だよ？

何で婚姻を続けてるんだろう。

まあ立場的な理由は然りだろうけど。

でも……良いタイミングだったね。

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