「またか……」
真っ白な光に包まれた俺は、どこかわからない夜の世界に飛ばした。
少年は、次が最後のチャンスだと言っていた。
次に何か、もしくは誰かを見つけられなければ、この時代に飛ばされた俺達3人ばかりか、妹も死んでしまう。
それにしても少年の奥方が俺達の近くにいたとは、どういう意味だろう?
見つけるのは、少年の奥方も含まれるのか?
「展開が早すぎだし、急すぎる」
思わず愚痴ってしまう。
リャイェンのブローチに触れた途端、視えた光景も然りだ。
俺がブローチを媒体に、視た光景は何だったのか。
時間にすれば短く、体感にすればあまりに長かった。
「ヒュシスで思いつくのは、元国教が主神として祀っている女神の名前だ。
ヴェヌシスは……初めて耳にした。
初代国王の名前だったとはな。
リャイェンの言った通りだった。
あのブローチは初代国王が契約していた聖獣達の牙や毛を使って、姉のヒュシスに贈っていた」
独り言ち、視たばかりの記憶を整理した。
※※※※
「ヒュシス!
ヒュシスだろう!
まさかこんな場で見つけられるとは!
もうずっと探していたんだ!」
ブローチに触れた途端、玉座らしき椅子に腰かける黒髪の男が視えた。
精悍な顔つきの美丈夫はそう叫んで走り出し、俺の体をすり抜けていく。
思わず避けようとした俺は、男の瞳にハッと息を飲んで動けずにいた。
男の瞳は空色。
それも王女と同じく金環が浮かんでいた。
何かの式典だろうか。
男はかしこまった装いをしていた。
更にロベニア国とは違う、幾つかの周辺国の代表を務めているとわかる装いの者達も、大勢いた。
ブローチにこめられていた記憶だからか、大半の人間は顔がぼやけ、輪郭も陽炎のように揺れている。
「えっと……国王、陛下?」
すぐ後ろで女性の戸惑う声がして、振り返る。
すると俺と同じ菫色の瞳をした女性が、俺をすり抜けた男に抱きつかれていた。
女性は隣国リドゥールの部族が、正式儀礼で着るような衣装だった。
アシュリーと同じ白桃色の髪を束ね、纏めている。
髪色も瞳の色も馴染みがある。
そして瞳には、金環が浮かんでいた。
「俺だ、ヒュシス!
お前の双子の弟、ヴェヌシスだ!
まさかロベニア国建国と国王の即位式典で、姉を見つけられるとは!
国同士の争いを止める平和協定を結んでみるものだな!
ヒュシスが俺の目の前で拐われた11の時から、俺はヒュシスをずっと探していたんだ!」
「拐われた?
11の時?」
初代国王であるヴェヌシスが歓喜に震えているのとは裏腹に、ヒュシスと呼ばれた女性は困惑している。
「ロベニア国初代国王よ」
その時、ヒュシスの隣にいた茶髪の男が、ヒュシスの手を引いてヴェヌシスから引き離し、自分の背中に隠す。
茶髪の男は、俺がよく知る藍色と同じ色味の瞳で、ヴェヌシスをひたと見据える。
「我が妻ヒュシスは、我がリドゥール国で人身売買に巻きこまれていた。
今、ようやくロベニア国を中心に、各国が手を取り合って平和を目指す事となりはしたが、依然として世は混迷を期している。
ヒュシスの幼い頃は、もっと酷かった。
ロベニア国王も想像に難くないだろう」
「もちろんだ。
よく無事でいてくれた」
ロベニア国が建国された当時、紛争が国内外で起きていたとされている。
初代ロベニア国王が建国と同時に即位し、周辺国と平和協定を結んだという史実は、ブローチの記憶を視る限り事実らしい。
「そんな中でヒュシスは、私と出会うまで過酷な仕打ちを受け続けながら、必死に生きてきたのだ。
そのせいかヒュシスは、私達が出会った16の頃より以前の記憶が曖昧となってしまった。
特に幼い頃の記憶に関しては、ほとんど失っている」
「そんな……」
息を飲むヴェヌシス。
俺も息を飲む。
もしかすると俺はロベニア国の元国教、ヒュシス教の起源を見ているのか?
「あの、人違いではありませんか?」
けれどヒュシスは、双子の弟だと主張するヴェヌシスの言葉に懐疑的なように見える。
ヒュシスからしてみれば、そうなるのも仕方ない。
建国したばかりの国へ、恐らく国の代表として夫婦で出席した。
そうしたら初代国王となる者が、自分の双子の弟だと名乗ってきたのだ。
「それはない!
お前が覚えていたという名前も、私の姉と同じだ。
何より、その瞳。
菫色に、私と同じ金環が浮かんでいる。
人違いのはずがない」
そう。
瞳の金環が無ければ、きっとこんな突拍子もない話など、誰も信じなかったはずだ。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
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カクヨムコンに参加しようと、以前にサポーター限定記事で投稿した作品を加筆しまくっております。
令嬢がオッサンに転生したら、深刻な体臭に悶絶して泣き叫ぶお話です。
令嬢がオッサンに転生したら、深刻な体臭に悶絶して泣き叫ぶお話です。
コメディですが、ちゃんと領地経営的スローライフなお話も織り混ぜつつあります。
恋愛要素は少しずつ濃くなる……はず。
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