「ヴェヌシス!
どうして聖獣達を殺して、力を奪ったの?!
何をするつもり!」
ヒュシスが叫ぶ。
一体、何が起こった?!
ヒュシスの言葉は、どういう意味だ?!
「ああ、ヒュシス。
やっと来てくれたのか」
場所は王城か?
玉座に座るヴェヌシスが、ヒュシスを前に悠然と笑う。
1つ前の光景で目にしたような、病にやつれた姿ではない。
活力が漲っているのが、一目瞭然だ。
玉座の周りには、人々が血を流して倒れている。
服装から王族、ヴェヌシスの家族だと察する。
玉座の側にはヴェヌシスと同じ色を纏う、成人していなそうな王子が膝を抱えて震えていた。
「ヴェヌシス、あなた自分の家族を手にかけたの?!」
「家族?
違うぞ、ヒュシス。
こ奴らは、とうとう私の命を狙うようになった盗っ人だ。
私の魔力溢れる血を奪い、権力を奪い、最後は命まで奪おうと目論んだ。
それでも国王である私の血を継ぐ者は残さねばならんからな。
1番幼く、性格を矯正できそうな子供を1人だけ残した」
「なんて事を……」
ヒュシスは甥に当たる王子へ、痛ましげな眼差しを向ける。
そんなヒュシスを、ヴェヌシスは満足げに見やった。
「随分と来るのが早かったな。
残っている聖獣。
ピヴィエラ、アヴォイド、ヴァミリアの力を取りこもうと考えていたが……」
「させないわ」
「わかっている。
それにお前がこうして私の側に来る機会は、今しか望めない」
「何を考えているの」
「なに、時間を巻き戻すだけだ」
「時間?
そんな事、できるはずが……」
「できるさ。
人間とは本質的に違う魔力を持つ、契約した聖獣の力を使えばな。
なあ、ヒュシス。
俺達が11の時だ。
お前が拐われた。
今考えると、こんな風に俺の血を継ぐ者達が、俺達の弟妹達が権力に囚われたのは、姉であるお前がロベニア国で共に過ごせなかったからだと思うんだ。
ヒュシスが拐われたから、家族が歪んで殺し合いを始めたに違いない。
だから俺達が11の年に、お前が拐われる前に戻ろう。
戻ったら今度こそ、俺はヒュシスを守りきる。
そうすれば将来、家族がいがみ合う事もない」
「まさか、契約した聖獣達を殺したのは……」
「素直に俺に協力してくれれば良かったんだ」
「ヴェヌシス、止めよ!」
その時、ヒュシスの体から白銀に輝く光が現れた。
光はヒュシスの何倍もの大きさになると、何かの4足動物を形どる。
ハッキリとしない輪郭に、何の動物なのかまでわからない。
動物の目の辺りだろうか。
その部分の光だけ、菫色に金が散った色に煌めいている。
この声と口調には覚えがあった。
俺が過去に飛ばされる時、『助けたくば、見つけよ』と頭に響いた、凛とした声だ。
「全ての属性を揃えた聖獣が自ら協力しても、副作用無く巻き戻せるのは僅かな時間だ!
それ以上巻き戻せば、お前自身がどういう結末を辿るのかわからない!」
「ああ、本当に反抗的だな、アヴォイド。
その瞳、ヒュシスと契約でもしたのか?
いや、違うな?
私との聖獣契約は破棄されていない」
そうか。
ヒュシスから出てきた光も、声の主も、聖獣アヴォイドだったのか。
契約していないのに、瞳の色が変わる?
そう言えば……国王の腰に巻ついていた黒蛇。
とんでもない魔力を持ち、意思疎通が取れていると思しき黒蛇だった。
黒蛇と国王が魔力を補完し合うのが視えた。
あの黒蛇の瞳は、金の散った藍色にも、朱色にも見える不思議な色をしていた。
朱色は国王の瞳と同じ色味で……待てよ、藍色。
藍色は妹と同じだったぞ。
2人が黒蛇の瞳と、何か関係しているのか?
「ヴェヌシス。
私とアヴォイドの想いが共鳴し、魔力が一時的だけれど、互いに混じり合ってあたるだけよ。
私達は、ヴェヌシスを救いにきたの」
「救う?
私を捨て去ったくせに、今になってか。
それならお前は隣国になど行くべきではなかった。
それに小賢しいな、アヴォイドよ。
ピヴィエラとヴァミリアも、殺した他の3体の聖獣も、記憶を歪めてから、俺と同じ血筋の弟妹達に縛りつけた。
思っていた通り、弟妹達は己の権力欲の為に聖獣達を振り回し、無為に他者を傷つけ、命を奪えと命じた。
私が殺した3体の聖獣はな、自らの意志で元の契約主たる私へ命と力を差し出したんだ。
ピヴィエラもヴァミリアも、あと少しでそうなっていた。
だが、お前だけは違う。
体を捨てて逃げたからな。
その上、俺の邪魔をする為にヒュシスを唆すとは……なんとも小賢しい奴め」
ヴェヌシスが顔を歪めてアヴォイドを睨んだ。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
黒蛇の瞳の色はNo.507で出てきてます。
ちょっと確かめてみようと思った方は、ご覧下さいm(_ _)m