「ポチとロナが?」
「はい。
3日前からポチが帰って来ないと思ってたら、今、ロブール公子から連絡がきて、シャローナも3日前から……」
聞き覚えのある声がして、目を開ける。
「そう。
ポチは首輪、ロナには花を埋めてあるから、無事ではあるだろうけど……どっちも3日前から行方不明……」
「役立たずです。
姫様にシャローナの事、頼まれていたくせに。
婚約者からとっとと降りれば良いのに」
どこかむくれた声音は、リリだろう。
もう1人は、間違いなくベルジャンヌ王女だ。
ところで俺はどうして、こんな所に引っかかっているんだろうか……。
突然の状況変化に、思わず途方に暮れる。
魔法を使えば、現状を打破できる。
しかし、それでは聡い王女に気づかれてしまう。
そうなれば半分から上が曇り硝子となっている、薄い扉越しに聞こえる会話は、当然中断されてしまう。
幸いな事に、今は扉の向こう側。
部屋の内側には分厚いカーテンがされている。
動かず、騒がず、気配を消していれば、きっと見つからない。
ちなみにここは、かろうじて部屋の外になる。
「リリ、シッ」
その時、不意に王女がリリに黙れと指示を出した。
「おい、ベルジャンヌ」
間髪入れず、無遠慮にドアが開かれる音がして、同時に不遜な男の声が響いた。
続いて王女の返答を待たず、当然のように部屋へと入る2つの足音も中から聞こえる。
「何?」
「ふん、驚きもしないか。
相変わらず可愛げがない異母妹だな」
なるほど、1人はエビアスか。
「おい、王女。
エビアス王太子殿下が直々に、お前の所に来たんだぞ。
その言い方は何だ」
そしてもう1人の聞き覚えがある声は、ハディクだな。
「うん、それで?
何か用があってきたんでしょ」
「お前っ」
「ハディク、構わん」
「チッ」
「今は機嫌が良いんだ。
寛大な心で、愚妹の事を許してやる」
ハディクを止めるエビアスは、確かに機嫌が良いらしい。
ハディクと一緒になって怒鳴ると思って身構えたのは、杞憂だった。
しかしこの2人が部屋に入った時からずっと、礼節に欠けている。
礼儀知らずなのは、お前達だろうと言ってやりたい。
もちろん今は、グッと堪えるが……。
「私の婚約者であるブランシュが、学園を卒業する。
それに合わせて重大な発表をする」
「発表?」
「そうだ。
私が学園を卒業してから、そろそろ1年が経とうとしている。
婚約者のブランジュも、あと数カ月で卒業だ。
それに合わせて、重大な発表をする事になった。
記念すべき日になるだろう」
「それで?」
「察しが悪いな。
今回の学園祭の後。
後夜祭のパーティー会場に来賓達が集まる中で、発表をする。
その時、発表に合わせて来賓達が驚きながらも感嘆し、私を褒め称える特別な仕掛けを考えろ」
「発表の詳しい内容は?」
「おい、平民の血を引く賤しい王女が、そんな事を知ってどうする。
ああ、王女には過ぎた婚約者が、他の女に現を抜かしているから、焦っているのか?」
ハディクよ、そこでどうして王女の婚約者が出てくる?
恐らく王女は、特別な仕掛けの為に尋ねただけだ。
仕掛けを考えるにしても、来賓がいるような場で、見当違いな仕掛けは施せないからな。
それにしても王女の婚約者が、他の女に現を抜かすと言ったか?
先にしていた王女とリリの会話。
耳にした内容的にも、今のところソビエッシュがシャローナに現を抜かすとは、どうしても思えない。
「ハディク、我慢しろ。
賤しい異母妹には、傲慢で不釣り合いな王族としてのプライドがある。
私の魔力が増して、魔法の才が開花するまでは自惚れて慢心していたんだろうが、今は全てに対して私より劣っている。
頼みの綱であるソビエッシュ=ロブールという、血統書付きの婚約者も、今では完全に愛想を尽かしてしまったからな。
あまり的を射た発言を突きつけて、仕掛けを失敗されても困る」
「はは!
それもそうだ!
図星か?
無言になってやがる!
ははは!」
確かに王女は無言だが、俺は短いながらも王女と接して、王女の性格はある程度わかっている。
相手にするのが、面倒臭い。
王女の感情は、これ一択だと思うぞ。
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