「私は王女との婚約、いや、婚姻しか望んでいない。
他の者では意味がない」
「何故だ。
やはり王家の血を取りこみたいんだろう」
「王家の血?
笑わせる。
邪魔でしかない。
私は王女だけを長年望み、王女と婚姻を結ぶべく、今日まで次期当主として研鑽を積んできた」
なるほど。
やはりソビエッシュはシャローナではなく、王女を求めているようだ。
では何故、王女が亡くなってすぐにシャローナと婚姻を?
婚約を飛ばして、婚姻を結ぶ必要があったという事か?
ソビエッシュとシャローナが婚姻した事で得をするのは……シャローナとチェリア家しか考えられない。
ロブール家にメリットはない。
多分。
そしてロブール家は名家の中でも名家とされている。
だからこそ貴族にありがちだが、他の家門はこの婚姻を邪魔しようとしただろう。
恐らく他の四大公爵家も。
だとして窮地に立たされるのは、シャローナ自身。
チェリア家は既に没落しかけているから、当主を脅しても効果は知れている。
シャローナの性格を考えても、その程度の事がわからないとは思えない。
何故シャローナも婚姻に同意した?
ソビエッシュにもシャローナにも、王女が亡くなる前後で婚姻を結ぶ理由ができた?
「チッ、これが最後だ。
まさか貴様が、あんな卑しい血が流れる女に惚れるはずもないだろう。
意地を張らず、ベルジャンヌとの婚約を解消しろ。
アッシェ公爵家も王家も、ベルジャンヌという都合の良い駒を手放すつもりは毛頭ない。
貴様がこのまま認めないなら、この場で私が殺す。
長らく共に育ってきた仲だ。
それにロブール公爵家の財力が魅力的なのも認めてやる。
貴様達の婚約解消に、同意しろ」
「少なくとも私が邸に戻らなければ、ロブール公爵家はかつての先祖のように、この国から手を引くように動く。
ロブール公爵家当主からそう言伝を受け、国王にも伝えてある」
少なくとも原状、ソビエッシュは王女以外との婚約も婚姻も、断固として拒否しているのは間違いない。
だとすれば王女が亡くなった直後に、シャローナと婚姻を結ぶ理由が生じた?
「小賢しい……」
ギリリとエビアスが歯噛みした時、エビアスの周囲に黒い靄がブワリと現れた。
いや、違う。
靄はエビアスの体から発せられたように見えた。
「ならば……この者で試してやれ」
靄が集まり、人のような影となってエビアスに耳打ちする。
「何だ、その靄は?」
「そうか……ああ、そうだ……」
するとエビアスは、ソビエッシュの言葉に反応する事なく、影の言葉で何かを悟ったように頷く。
直後、ソビエッシュに向かって手をかざした。
この牢は、魔法の使用を防ぐ魔法具でもあったはず。
にもかかわらずソビエッシュの足下には、赤黒く禍々しい色を放つ魔法陣が現れた。
その時、不意にレジルスが暴れる。
「駄目だ。
恐らくソビエッシュは、命までは奪われない」
「グルルル」
慌ててポチを抱く腕と、首輪を掴む手に力を入れ、押さえる。
ポチの不服気な唸り声は無視する。
俺とてソビエッシュを助けたい気持ちはある。
しかしどんな魔法かもわからないまま動けば、助けられる者も助けられない。
下手をすると二次被害にも遭いかねない。
俺はラビアンジェ公女とチームを組んだ際、公女から真っ先にその事を教えられた。
『正義感という言葉を笠にきて動くのは、単に感情をコントロールできない力量不足な愚か者がする事でしてよ。
まずは状況を分析し、機会を窺わなければ。
それが嫌なら、もっともっと知識と知恵と力をつけなさいな』
公女は時に辛辣だ。
だが言葉には歴戦の勇士のような重みを感じた。
チームを組むようになって暫くは、あらゆる責任から逃げ出す、無責任逃走公女だとばかり思っていたのに。
「……グッ」
ソビエッシュの呻き声と、ドサリと地に倒れる音で我に返る。
「ベルジャンヌから魔力を奪うには、聖獣の祝福が邪魔をしているらしい。
だが聖獣と関わりのない貴様なら、こうして魔力を奪えるのだな。
貴様も、他の貴族達も、いつも私の邪魔ばかりをして、いい加減うんざりしていたのだ。
だから明日の後夜祭で、シャローナの側室入りを反対するような貴族達は、反乱分子として排除してやるつもりだ。
しかし排除するのだから、奴らの魔力を奪っても許されるな。
ソビエッシュ。
貴様も反乱分子の1つとして、処理してやろう。
もちろん邸には返してやるぞ。
全てが終わり、魔力が枯渇した息子を見れば、ロブール公爵も言う事を聞くようになるさ」
「があぁぁぁ……っう……」
ソビエッシュの体が痙攣を始め、やがて呻いて静かになった。
「くっくっく……どのみちベルジャンヌは父上に逆らえない。
貴様が動けない間に、ベルジャンヌがお前との婚約解消を認めれば、処理は進められる」
そう言い捨てた後、エビアスは高笑いしながら去って行った。
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とうとう書籍四巻のカバーイラストが公開されました!
綺麗なので、購入いただく方もそうでない方も、ぜひぜひご覧下さい!
ラビアンジェ&ベルジャンヌなので、書籍版のベルジャンヌの顔を知らない方も、是非!
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