「君は確かに被害者。
そして1番の加害者でもある」
「がっ」
王女が国王の胸ぐらを掴み、崩れ落ちそうなところを留める。
流れるように、国王の頬を拳で殴り飛ばした。
公爵達も、聖獣達も、その光景をただ見ているだけで、一国の王を助けようとはしない。
いや、助けられないの間違いか。
「……お、お前っ、がっ……生まれさえ、しなけれ、ばっ……ッ!!」
「頭も悪い」
もんどりうって転がったかと思えば、国王は更に御託を並べ始める。
かと思えば、王女が国王の側頭部を蹴って転がし、黙らせる。
「ああ、気を失っては駄目だよ」
「なっ……」
本来なら頭が揺れ、意識を消失してしまうはず。
しかし王女は治癒魔法を頭に使ったのだろう。
国王の意識は保たれている。
冷えた目で、国王の顔をじっと見つめる王女。
初めて見るが、きっと怒りを顕にしている。
正直、怒りと言うには静かすぎるように感じるんだが……。
「あらあら、初めてのオコに、むしろ戸惑っているのね。
やっぱり反抗期にしては、可愛らしいわ」
……そうか、初めて……オコって何だ?
可愛らしい反抗期って、異母兄をフルボッコにする事が?
シャローナ……の、中の人物の感性は、相変わらずだな。
むしろらしさに安心してしまう、そんな自分の感覚が……不安だ。
心のどこかで戸惑いながら、普段ならしなそうな倒れた国王の頬を無言で踏んづけた。
「ふ……っぐ、お前、の、その目!
やめ、ろ!
父上と同じっ、ふぐっ、止めろ!」
無言の王女に頬を踏んづけられ、床に這いつくばる国王に、怯えが混じる。
「どんな目をしてるか知らないけど、止める理由にはならないよ」
王女は更に、国王が制止の声を上げても踏みつけ続ける。
国王がいつ意識を飛ばしても不思議ではないのに、そうならないところを見ると、王女は治癒魔法の他、精神系の魔法も使っているようだ。
「ぉぐっ、うっ、止め……っぐ、ち、父っ、上っ……ぁっぐっ、止めてっ、くだっ、さ……」
国王の制止に懇願が入り初めたが、父上?
意識が混濁し始めたか、もしくは王女が精神系の魔法て感情を揺さぶっているか……両方かもしれない。
王女が足を止め、ゆっくりと退かす。
ただ見ていただけの公爵達が、国王の泣き崩れる様に、ハッとしたようになる。
中でも国王と密な関係のように思わせていたベリード公爵は、痛みを感じるように顔を歪ませて視線を外した。
国王は父親であるこの時代の先代国王と、何か確執のようなものがあったのか?
俺の時代には、国王の父親についての話は普及してい。
少なくとも末端下級貴族には縁のない話だ。
「うっ、も、もうっ……父上っ、お許しをっ、アシュリー……1度だけ目を瞑れとっ……そうすれば私に、譲位……目を瞑ったでは、ありませんか!
父上……約束を守らず、アシュリー……うっ、返してくれない、からっ……殺してっ……」
国王はとうとう頭を腕で隠し、涙を流して丸くなる。
それよりも……アシュリーは王女の母親で……国王は一体何を言っているのか、俺にはわからない。
「キュウン」
ポチが気遣わしげな様子で首を後ろに捻り、シャローナの中の公女を見やるが、やはり俺には国王の言葉の意味は正解にわからない。
「ああ、やっぱりそういう事」
しかし王女は合点がいった……いや、どちらかと言えば、答え合わせをしたら合っていた感じか?
「国王はね、婚約者だった私の母親、アシュリーを最愛だと言いながら、自分の父親がアシュリーに手を出すのを、あえて見逃したのよ」
「な、に……」
俺には訳がわからないのを察してか、公女が説明してくれたが、思わず絶句する。
「どのタイミングで、そうしたのかはわからないわ。
国王を慕い、執着するスリアーダが手引きし、父親がアシュリーの尊厳を奪った。
その後、取り引きした可能性の方が高いとは思うけれど。
もちろん国王の言葉通り、父親は1度と言わず、私を宿すまでアシュリーは監禁されていた」
公女の言った私の母親という言葉から、公女と王女の関係性に、更なる確信を持つ。
だが公女の落とした真実が、あまりにも酷い。
そして少し前、王女が国王に言った言葉と、ある光景が繋がった。