「どうして……」
短時間に様変わりした会場に辿り着いた俺は、思わずそう呟いた。
リリと共に花火を打ち上げた後。1時間程してだろうか。
塔から見えていた後夜祭の会場の状態を、風魔法で集音していた俺の耳に悲鳴が届いた。
エビアスがシャローナを正式に側室にしたと発表し、当然だがベリード公女が意見した。
アッシェ公爵が威圧的にベリード公女へ「王太子妃候補風情が〜」とか、「たかが公女が立場を弁えろ〜」とか言い放つ。
エビアスも「嫉妬も甚だしい〜」とか言って、ベリード公女を馬鹿にする。
しかし会場全体が、王太子妃すら迎えていない、国王でもない人間が何を言っているんだ、という空気を醸し出す。
そんな中、ハディクが「来い! 隠れて無駄な抵抗をして、遅くなっただろう! お前にかかった守護魔法のせいで触れないからって、調子に乗るな! チェリア家がどうなっても良いのか!」とか言いながら、明らかに嫌がるシャローナを連れて登場。
シャローナは「嫌よ! アンタなんて王太子どころか、王族にだって相応しくない! 私は側室になんてならない! そもそも臭いのよ! 変てこりんな黒い靄を嗅がせて、私を拉致したくせに! 誘拐犯!」と叫ぶ。
シャローナの言葉に後押しされたのか、会場からは比較的大きめのヒソヒソ声が発生。
大半が臭いと、王太子の在り方について言及する声だ。
しかし一部から「やはりベルジャンヌ王女の方が〜」とか、「本当は全て王女の功績なのに〜」と声が上がる。
この王女を擁護する声が波及し始めた時、シャローナを黙らせようとしていたエビアスの様子が変わる。
集音でしか状況を探れない俺にも、ハッキリわかる変化だった。
エビアスが「私を馬鹿にするような者は、私の治世に不要」と言った直後、人々の悲鳴と怒号が響く。
暫くするとそれも止まり、静寂が訪れる。
ベリード公女が「何故、他人の魔力を取りこめる」とか、ニルティ公女が「その黒い靄に臭い……まさか魔法呪」と、苦渋に堪える声音が届いた。
俺は王女がこの塔で死ぬ未来を阻止したいと思い、異常を聞いても塔に留まっていた。
しかし【魔法呪】というワードが出たのに、留まる事はできなかった。
そうしてリリを残して会場へ向かった俺は、身体強化と施錠された鍵の早急な解錠に専念すべく、集音魔法を切った。
何せ会場から一番遠い塔からは時間がかかる。
この時代の学園は敷地面積が広い。
加えて学園祭の後夜祭には、エビアスが王太子として参加する。
その為、各校舎を繋げる決められた廊下と、出入口だけが使用できる状態。
更に出入口毎に鍵が掛けられている。
そうしてやっとの思いで駆けこんだ俺は、凄惨……いや、ある意味、壮絶と揶揄したくなる光景を目の当たりにして絶句したのだった。
死屍累々。人々が倒れている。
最初こそ、会場に充満する、いつかの男子寮の屋上で嗅いだような腐った臭いのせいかと思ったが、違う。
幾人かを除き、全員が呻いているから生きてはいる。
鼻を腕で覆って瞳の力で視てみれば、皆が皆、魔力枯渇。
重篤化まではしていないが、いつかの教会で目の当たりにした流民達くらいには、苦しんでいる。
そして死屍累々から逃れた幾人かの人間。
まずは二人の女生徒。この時代のベリード公女とニルティ公女だ。
未成年も混ざる学園の後夜祭らしい、華美さを少し抑えたドレス姿で、身を寄せ合って立っている。
倒れる程ではないにしても、魔力が減少していて顔色が悪い。
だが二人の表情は、戸惑う感情が大きく出ている。
…………ちょっと共感できるな。
そして二人の青年。エビアスとハディク。ついでに死屍累々の中の一人で、ハディクの真横に転がるアッシェ公爵。
俗な言い方をすれば……フルボッコ状態。
ハディクは腰を抜かして尻もちをつき、ガタガタ震えている。
恐慌状態だな、アレ。
髪色に王族特有の銀が混ざっているからこそ判別できた、エビアスは……。
「ぎ、ぎざま……はあ、はあ……こ、この……」
一応、喋ってはいた。
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カクヨムの方で何話か先行投稿しておりますので、どうしても先が気になられる方がいらっしゃいましたら、ご覧下さい。
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