A Notorious Villainess Enjoying a Life of [Talentless and Incompetence] in Her Third Life – Chapter 635

「ギリギリだけれど、探索者は影虎を見つけたわ。

わかっているわね」

ニコリと妹が微笑めば、象＿＿アヴォイドがため息を吐いた。

「……ズルだ。

認めるわけには……」

「あらあら、時逆の魔法を発動させた罰が芽吹いても良いのかしら？」

「何?!」

アヴォイドが慌てふためくが……時逆？

まさか初代国王、ヴェヌシスが使った古代魔法か?!

しかし妹が何故、そんな魔法を?!

「もしも影虎の魂を消滅させるなら、私の魂は異なる者へと堕ちるわよ？

本来の正しい手順で発動させたからこそ、異なる者へと変わる種が、体に埋まっただけに止まったの」

驚きの発言だらけだ。

俺の妹のやらかし方が、とんでもなく破天荒だ。

妹はどうして時間を巻き戻そうと……そうか、俺だ。

俺の記憶では、間違いなく学園で死んでる。

ラルフもそうだと言っていた。

妹が時間を巻き戻したからこそ、結果的に傷ついた肉体が修復されたのだとしたら……。

知らない内に妹に助けられ、その代償を負わせていた事実に血の気が引く。

ベルジャンヌだった頃の自己犠牲は、ラビアンジェになっても変わっていないのか。

「影虎と魂が繋がっている状態で、月和として得た日本語を使ったからかしらね。

月和と関わりの深い、３つの人生を通して誰よりも深く愛している影虎は、私の善そのものとなり、私の心が善へと傾いていれば、芽吹かない。

だからこそ影虎の魂が消滅するなら、私の中の善は消えて堕ちてしまうわ」

「しかし……」

「そして本来の強制解除の魔法は、既に発動条件を満たしている。

今在る縛りは、あなたが干渉する為につけ加えたルール。

つまりあなたが納得すれば、全てが丸く収まってしまう。

あなたがそれを良しとしない理由は、他にある」

「……気づいていたか」

「人を信用できない気持ちまで否定しない。

裏切られ続けたあなたが、それでも信用したいと願っている事もわかっているわ。

だからこそ私がお兄様の瞳の力をコピーして、この空間やあなたに逆干渉する隙を与えてしまったのよ」

「そうか……だからお前は我を捕まえられたのか」

アヴォイドが困ったように、深くため息を吐く。

「昔の王家がベルジャンヌにしたような、卑怯な人質は取らないで。

そんな事をしなくとも、私はあなたも見捨てない。

あなたの望みは、もうわかっているわ。

全てを強制解除されても、必ず叶えると誓う」

もしかするとアヴォイドは、影虎の魂を消滅させた振りをして、妹から隠そうとした？

自分の望みを叶えれば復活させると言う為に。

「……ならば……あと一度だけ信じよう。なれどお前の夫は元々、異世界の者。お前との繋がりが消えれば、こちらの世界に留まれず、元の世界に戻る事になる」

「それで良いわ。けれどお別れはちゃんとさせて。あの日……影虎が死んだ日。私は厳密には、影虎とお別れができていなかった。それだけが心残りだったから」

「良いだろう」

アヴォイドの輪郭が薄らぎ、光となって妹の中に消える。

すると夫婦は互いを暫く見つめ合って、苦笑する。

「やっと会えたな」

「……ええ……馬鹿ね」

「俺もちょっとは心残りだったんだよ。明け方、まだ月和が寝てる時にトイレ行って、冷たい水をグイッとやったら心臓発作でポクッといっちまったから」

「若い頃の癖でやっちゃうからよ」

「まだ月和と違って80きてなかったし、若いつもりだったんだがなあ」

そうか、妹の方が年上の夫婦だったのか。

「起きてキッチンに行ったら、床に転がったあなたが、右手は腰に、左手は親指立てて上に上げた状態で死後硬直してるんだもの。

しかも死に顔がとっても満足気。

色々びっくりしたわ」

それは俺もビックリだな。

そんな場面に遭遇したら、普通に反応に困るわ。

「やりたかったんだよ。

我が人生に悔いなし、みたいなやつ」

「子供達も、あなたらしいって笑ってたわよ」

妹は呆れた顔で、夫の影虎に手を差し出すと、影虎はその手を取って立ち上がる。

「ああ。ここから見てた」

「馬鹿ね。

こんな所に来たりして。

異世界なんて渡らずに、あっちの世界で家族を見守っていれば……」

妹が言い終わる前に、影虎は掴んだままの手を引いて、抱き寄せた。

「死んでも愛してるっていつも言ってただろう？

惚れて、添い遂げた奥さんを助けんのは、やっぱ俺じゃないとな」

「そうね……けれど私も言ったわよ？」

妹が影虎の首元に腕を回して、抱き締め返す。

「生まれ変わっても、愛してるって」

妹が言い終わった直後、影虎の体が淡く発光した。

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

お知らせです！

稀代の悪女４巻が3/10（月）に、とうとう発売です！

そして10日を待たずして、発売しているお店のＸを見つけたので、お店によってはもう発売している……かもΣ(・∀・；)

一応今回も店舗特典にSSを書いているので、よろしければ対象店舗にて購入いただければと！

詳しくはこちらに↓

https://kadokawabooks.jp/product/kitainoakujo/322411000859.html

そして４巻もオリジナルシーン追加や、加筆修正もしまくってます(*´艸｀*)

※今回こそ今までで１番、読みやすい文章になっているはず！（当社比……いつも頑張ってはいるんです……）

WEBとはラストも変わり、ミハイルのツッコミも増し増しです！

影虎が!?　ラビアンジェのやべえ姿が!?　なんて珍事も起こるので、WEBを知っている方にも新鮮に楽しんでいただけるかと(*゜∀゜)

今回も続刊は売り上げ次第だったりするので、書籍版としての悪魔ジャビとの決着や、影虎が本格登場して区切りがつく（予定）の５巻へと繋げていただけると、とてもありがたいですm(_ _)m

よろしくお願いします！