「はじめまして、フィルン族長。
リュンヌォンブル商会より派遣された、デザイナーの月影よ」
「ああ、はじめまして。
族長のベルシュリーだ。
そうか、君が……」
目の前にいるのは、白髪が混じった黒髪の男性。
瞳は菫色と藍色のオッドアイで、実年齢より若く見える。
どこか感慨深く私を見つめる彼は、リドゥール国三大部族の1つであるフィルン族長。
ルカルドとカルティカの父親でもあるわ。
ベルシュリーの瞳の色。
まさかチェリア家の瞳を、オッドアイで引き継いでいたなんて。
カルティカちゃんと、お祖母様の護衛を務めているルカルド。
この兄妹の金眼は、祖父にあたるリュイェンから継いだ、隔世遺伝かしら。
もうわかる通り、ベルシュリーはリュイェンとアシュリーの息子よ。
三人兄妹の長子なの。
ベルジャンヌだった私は、ピケルアーラとアシュリーをリュイェンに託した。
5年程前、心臓発作でこの世を去ったリュイェン。彼は、シュリと名を変えたアシュリーの人生をまるっと引き受け、娶ったらしい。
一夫多妻制が認められる三大部族だけれど、リュイェンはアシュリーだけを妻とし、人生を終えた。
アシュリーと、アシュリーを追いかけたロウビル。
2人が亡くなったのは、もっと前だとルカルドから教えてもらった。
アシュリーは三人目を生んだ後、体調を崩しがちになってしまった。
三人目の子供が10才を迎える前に、風邪をこじらせてロウビルより先に逝ってしまう。
アシュリーがベルジャンヌを思い出す事は、最期の瞬間までなかったらしい。
それで良かったと、私は心から思っている。
アシュリーは息を引き取る前、リュイェンに「ありがとう」と言って、微笑んで旅立ったと聞く。
もしアシュリーがベルジャンヌを思い出していれば、そんな風に旅立てなかったはずだもの。
ロウビルが亡くなったのは、アシュリーの末子が成人した頃。
かなりの高齢だったけれど、もしかするとアシュリーが最後に生んだ子供が成人するまではと、気力だけで生きていたんじゃないかしら。
満足気な表情で、眠るように亡くなったと聞いた時は、前世で穏やかに死んだ自分と重なった。
ラビアンジェのお祖父様、ソビエッシュを介して視た、過去が変わる前のロウビルの最期。
ベルジャンヌの戸籍上の父親であり、血縁上では異母兄となるオルバンスに殺されていた。
まさかロウビルが、あんな死に方をしていたなんて。
そんな風に愕然とすると同時に、だからかと合点がいった。
この事は、きっと誰も知らないわね。
ちなみにお祖父様の記憶にあった、オルバンスに殺されるロウビルを、私も視れたのは、強制解除の古代魔法陣に、お祖父様が瞳の力で干渉したから。
変わる前のロウビルの行動を、知らないままでいなくて、本当に良かったと今ではほっとしている。
元々の過去では、王城でオルバンスと最後に対峙したロウビルは、揉み合いになった。
ロウビルは隠していた短剣をオルバンスに握らせ、自分の心臓を刺させるの。
【自分の血を色濃く引き継ぐ者達へ、決して関わらず、害も与えるな】
それがロウビルが自分の命と引き換えにしてかけた、オルバンスへの制約魔法。
自分の子、良くて孫という、有効範囲の狭い血縁者を、特定の者から強力に守る魔法よ。
オルバンスがアシュリーを探さず、チェリア家にも手を出していなかったのは、ベルジャンヌが最後に与えた恐怖からだと思っていた。
けれど変わる前の過去では、そうじゃなかったのかもしれない。
何より、変わる前のオルバンスは、ベルジャンヌに抵抗する事なく、大人しく殴られてくれていた。
そもそも変わる前の過去では、確かにオルバンスはベルジャンヌを呼び出したけれど、あの場にベリード公とニルティ公はいなかったのよ。
恐らくオルバンスは、ロウビルのかけた制約魔法が、ベルジャンヌにも有効だと察していた。
もしかするとベルジャンヌへの害意を、あの日にベルジャンヌを呼び出す前から、ロウビルの制約魔法が防いでいたのかもしれない。
ロウビルの制約魔法は、言い換えればオルバンスにとっての弱点とも言えるもの。
ベルジャンヌを含む、チェリア家の血縁限定になるれど。
オルバンスの性格をかんがえれば、それが露呈するかもしれない場へ、二人の公爵を呼び出すとは思えない。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
変わる前の過去で、ロウビルが亡くなった経緯が気になった方は、No.589をご覧下さいm(_ _)m
6章後半の開始です(ノ´∀`*)
7章にしようか迷ったものの、6章の延長で悪魔ジャビとの解決編となるので6−2(最終章予定)としました。
そして恐らくこの章が、約3年かけて書き続けた【稀代の悪女】物語の最終章になるかなと思います!
毎日更新は難しいですが、なるべく更新頻度高めで最後まで走ります!
最終章を完結後、他サイトにて要望のあったIF影虎を投稿するつもりです(*^^*)