「ロベニア国王立学園の学園長から、デザイナー月影の話は聞いている。
ロベニア国内の大多数の貴族が通う、王立学園。
その学園が、諸外国からの留学生を積極的に招く方針となった事に関しては、リドゥール国三大部族長として、好意的に受け取っている。
だが……」
「ええ、その為の条件は伺っているわ。
ロベニア国に隣接する諸国。
特にここ、リドゥール国。
そして魔の森、通称、蠱毒の箱庭を共有しているプティル国。
この2つの国からは、ベルジャンヌ=イェビナ=ロベニアの、ロベニア国内の在り方に対し、強い改善要求がなされているとか」
「ああ。
君は知らなかったかもしれない。
君達の国では、稀代の悪女と揶揄されるベルジャンヌ王女。
しかしかの王女は、ロベニア国が今の地位に在れる、真の功労者なのだよ。
更に我がリドゥール国とプティル国にとっては、大きな恩義がある王女だ。
何より、稀代の悪女などという汚名は、時の王家と権力者達によって捏造された、虚構の姿にすぎない。
本来なら王女が亡くなった時、ロベニア国は周辺国からの侵略を受ける可能性は、十分にあった」
ベルシュリーの父親であるリュイェンが流民として、ロベニア国で受けた仕打ち。
更に当時のアッシェ公爵が蠱毒の箱庭と呼ばれる前の、魔の森で犯した過ち。
この2つだけで考えてみても、当時ロベニア国を牽引していた政治の中枢が、いかに傲慢な考えを持った王族と貴族達で機能していたかがわかる。
魔法の扱いに長け、聖獣という強力な武器を持ったが故の、愚か者達だ。
「しかし王女は死ぬ時まで、ロベニア国の存続を望んだと聞いている。
儂の祖父リュイェンと、曽祖父のロウ。
王女と直接接した2人の証言と、王女がロベニア国に帰ると告げた最期の言葉。
これがあったからこそ、ロベニア国は存続を許された」
とは言えベルジャンヌが死んだ日、キャスちゃんとラグちゃんも含めて、もし全ての聖獣達が完全にロベニア国から手を引いていたなら、そうはならなかったかもしれない。
それくらい、他国からすれば聖獣達の力は脅威だったはず。
もちろんリュイェンの人柄は、私自身も知っているから、ベルシュリーの言葉を否定するつもりはない。
「ただしロベニア国を危険視する諸外国は、ロベニア国をそれぞれの視点から秘密裏に監視していた。
リドゥール国の三大部族である我ら。
我らはロベニア国の未来を担う、貴族と富豪の子供達が、どのような思想で成長しているのか監視していた。
部族長の直系子孫は、下位貴族や富豪だが平民という低い立場で学園へ入学してきた。
儂の5男であるルカルド。
ロベニア国第1王子であるレジルス王子が在学中、学園へ通っている。
稀代の悪女について思う事はあるが、他国との関係を視野に入れた学生が多かったと報告を受けている。
しかし君の元婚約者でもある第2王子、ジョシュア王子がレジルス王子と交代するように生徒会長となった頃。
もっと詳しく言えば、君が表向きの立場となるロブール公女として学園に入学した頃だ。
この頃から、学園内の風紀は乱れ始め、看過できない事態と判断せざるを得なくなった」
藍色と菫色のオッドアイには、複雑な色が浮かんでは消える。
「今、学園には娘が在学している。
娘から、ラビアンジェ=ロブール公女としての、君の言動も報告を受けていた」
ベルシュリーの娘は、カルティカちゃんよ。
きっと包み隠さず報告はしていたんじゃないかしら。
公女としての私が、いかに責任から逃走していたかについても。
けれどラビアンジェ=ロブールの自業自得として処理するには、第2王子や取り巻き達の言動も酷い。
結局、一括りにすれば、王家と四大公爵家も含めたロベニア国の王侯貴族達から、危険思想も窺えた。
監視者としては、落第点を付けたでしょうね。
もちろん私の事は、調べていたはず。
そして私の個人的な活動について、調べはついている。
そうでなければ私が月影として、こうやってリドゥール国に訪れる事はなかったもの。