「ルカルドの話から推察するに、学園祭での一件を収めたのは君だろう。
こうして君と直接対面して、改めて確信もしている。
君が魔力をどうやって隠しているのか、本当に魔力が低いのかはわからない。
しかし君からは、ベルジャンヌ王女が儂の父親に託したピケルアーラや、ピケルアーラに近い獣の気配がする」
ベルシュリーは何かを検分するように、目を細めて私を見つめる。
「もしかすると君の魔法は、魔獣を従える獣操魔法のような、もしくは、個別スキルのような力を根源とした魔法なのかもしれない」
建国の初代王ヴェヌシスの双子の姉、ヒュシスの血を受け継いでいるからかしら?
それともベルジャンヌと同じくアシュリーの血を引いたからかしら?
私にとっては、ある意味で異父弟のような存在のベルシュリーは、鋭いのね。
ベルジャンヌの魔力を注いで孵化したピケルアーラが、ベルシュリーが母親の胎内にいた頃から側にいた事も影響しているのかもしれない。
「ロベニア国の側妃が精神を病んだというのも、何かしら関連していると儂はみている。
君はロベニア国が公表した内容で、納得しているのか?」
「納得もなにも、それが事実ですもの」
もちろん納得している。
あそこで実名公表なんてされたら、面倒事が増えに増えてしまうもの。
ベルシュリーの言葉に、明確な答えを返さないのも私の意志。
私が学園祭で起きた出来事を直接的に解決したと知っているのは、あの場にいた王族、アッシェ騎士団長とリリ。
そして第2王子とシエナに甚振られていた、バルリーガ公爵令嬢くらい。
ダツィア侯爵令嬢とフォルメイト侯爵令嬢は、私があの場に到着した時点で、完全に目を閉じ、死を確定させていた。
ちなみに私が校内アナウンスをした後、魔獣達が白いリコリスに鎮圧されたのは、私作のヤバイ魔法具を、私が暴発させたせいとしている。
どうしてかしらね?
皆、そんな話を信じたみたいなの。
そういう事なら信憑性が増すよう、そういう魔法具を造って素敵な起動ワードをしこもうかと、提案したのよ?
なのに、どうしてかしら?
国王にはすげなくお断りされたの。
解せないわ。
一緒にいたお父様は、目をキラキラさせて頷きかけたのに。
隣に座っていた国王が、お父様の後頭部と口元に手をやり、頭と口の動きをロックしたの。
前触れなきスキンシップにビックリ。
けれどお父様の方が国王よりも年下だし、幼い頃から知った仲だと聞いているわ。
突然スキンシップを取るくらい、2人は仲良しさんなのね。
国王は魔法具関連以外、全て私の望み通りに処理すると言ったわ。
だから側妃だけでなく第2王子も現状、幽閉で済んでいるのは私が望んだ事。
幽閉場所は国王にお任せしていたのだけれど、聞けば先々代国王が幽閉されていた場所だと言われた。
実は先々代国王が、譲位直後から死ぬまで幽閉状態だったとはね。
国王から聞かされるまで、ベルジャンヌが死んだ後の王族はもちろん、四大公爵家の面々もどうなったのか、実は知らなかったわ。
聖獣ちゃん達は彼らにそっぽを向いていたし、眷族達もそれに準じていた。
私も大して興味がなかったから、そもそも誰かに聞こうとした事すらない。
お兄様の教養の強要からは全力逃走をきめていて、たまたま耳にした事以外、知らないままの状態できた。
今回、私もお兄様を含む3人の探索者と共に、過去に意識と魂を飛ばし、もう1度ベルジャンヌとしての出来事を体験し直さなければ、きっと知ろうとしなかったでしょうね。
ベルジャンヌだった私の異母兄、オルバンス。
彼の遺した日記と共に、アシュリーが宛てた怨嗟の手紙を保管していた事も、初めて知った。
ちなみにオルバンスが書いた日記の大半は、恨みがましい内容よ。
死ぬまで思春期だったのねと、ついうっかり微笑ましく感じたのは秘密。
アシュリーの手紙は正直、そのうち捨てて見なかった事にすると思っていたわ。
けれどオルバンスは、死ぬまで保管していた。
どんな形でも、アシュリーの痕跡を側に置くくらい、執着していたみたい。
けれど特に驚いたのは、何故か聖属性の魔力で保護されたベルジャンヌの肖像画も、蟄居先に隠していた事よ。
ベルジャンヌの肖像画なんて、それこそオルバンスは燃やしそうなのに。