__バタバタバタバタ!
2人の族長達が、更に色々とまくし立てて話す中、複数の足音が忙しなく近づいてくるのが聞こえた。
同時に静止させようとする__恐らく少し前、乱入する族長2人を静止していたベルシュリーの部下__声が聞こえる。
もちろん足音が止まる気配はなく、バンッと、けたたましくドアが開く。
「「「「アンタ!」」」」
「「親父!」」
「「「「お義父さん!」」」」
「「「「クソジジイ!」」」」
年代がバラバラだけれど、関係性は察せられる人達が、男女入り乱れて勢い良く突入してきた。
「「お、お前達?!」」
筋骨隆々族長とツルリ族長が、2人して驚き、立ち上がる。
「話は聞かせてもらったよ!
まったく、いつまで初恋拗らせて、私達夫人を蔑ろにする発言してんだい!」
「クィラ第1夫人の言う通りね!
いくら一夫多妻制だからってね、経済的な甲斐性さえありゃいいってもんじゃないんだから!」
「「私達、決めたわ!」」
ツルリ族長にキツく詰め寄るのは、気の強そうな2人の女性。
最後は声をそろえて宣言した女性は2人共、ツルリ族長の奥様でしょうね。
「突然、アンタの声が風に載って聞こえてきたと思えば……」
「落ち着いて、カツィ第2夫人。
アンタ、わかっているわね。
他の2人の夫人と、前々から話し合った事を伝えにきたわ」
ワナワナと怒りに震える、多分第2夫人であろう女性を気遣い、同時に毅然と筋骨隆々族長に告げる女性。
そんな一夫多妻制の夫婦を、それぞれに囲むのは、2人の族長それぞれの家族達でしょうね。
「何をやった?」
そんな騒然とした状況なのに、冷静な、いえ、半分呆れたお顔を私に向けて尋ねるベルシュリー。
互いに椅子に腰掛けたまま、顔を見合わせる。
「あらあら、私は何もしていないわ?
強いて言うなら……ね?」
背後を軽く見やってから、ニコリと淑女らしく微笑む。
「……はぁ。
やはり、そこにいたのか」
するとベルシュリーも私の背後を見てから、ため息を吐き、そう続けた。
『シュピー♪』
ふふふ、ピケルアーラったら。
ベルシュリーに気づいて貰えていた事が、嬉しかったみたい。
上機嫌な噴気音が、私の右肩辺りから聞こえる。
そんな私達2人と1体の、ほのぼのムードとは違い、いつの間にか自分の家族達から壁際へと、並んで追い詰められた族長2人は顔を引き攣らせていた。
「つ、つつつ妻達よ。
何を聞いたんじゃ?
いや、それより何を決めたと言うんじゃ?」
「ワ、ワワワワイフ達よ。
何が風に載って聞こえ……んんっ。
それより先に、俺に言いたい事を聞いた方がいいか?」
まあまあ。
さっきまでの私に対する嫌味な態度と違って、奥様達には猫なで声を出しているわ。
奥様の機嫌を取ろうとするのも、ある意味では当然ね。
だってピケルアーラの話を出したあたりから、この邸近くの村で待機していた族長一家に、風魔法を使って今の会話を全て流し聞かせていたのだもの。
もちろん魔法を使ったのは、私じゃない。
私の背後で姿を消しているピケルアーラよ。
ピケルアーラは既に聖獣へ昇華し、私と聖獣契約を結んでいる。
そこで追い詰められている族長達に、ピケルアーラの今の姿を見せれば、少しは態度を改めるかと思って話を切り出したのだけれど……。
「「「「族長多妻一致の権限を行使するわ」」」」
ピッタリとシンクロした奥様達の宣言に、私の出る幕はなかったと考えを改める。
「「どどどどんな……いや、いい。
止めてくれ。
頼む、俺(儂)が悪かった」」
真っ青になった族長2人は、自分の奥様が何を言うのか、もうわかっているみたい。
謝りながら、懇願する。
ちなみに奥様達の言う権限は、族長達の複数いる奥様達全員が意見を一致させない限り、発動しない。
けれどその分、発動すれば夫が暴走した時の抑止力になる。
それくらい、部族の中で認められた強い権限よ。
「「「「夫であるチャド(シーン)族長を、ここにいる息子に交代させる」」」」
「「そんなっ!?」」
あらあら、突然の急展開。
「「任せろ」」
ガクリと膝から崩れた自分達の族長を無視し、世代交代に次の族長達が力強く頷いた。