「ロゴ入り小説の文章と、トワの書く文章。
よく似ていたわ。
バルリーガ嬢を追えば、トワにも繋がるか、もしくはバルリーガ嬢がトワもしれないと思っていたけれど……ロブール公女と繋がっているなんて」
「怪しいわね、ブランジュ。
何せ公女は、社交の場に出ないわ」
「そうよね、モニカ。
なのに社交界では若者を牽引し、デザイナー月影のドレスを身につけるバルリーガ嬢と秘密裏に会うくらい、親密。
学園での公女も、バルリーガ嬢と親交はなかったはず……」
「ええ。
私も何度か影の報告書を読んでいるもの。
公女はバルリーガ嬢だけでなく、高位貴族との交流は、ほとんどなかったはず。
なのにいつの間にか、影響力のある貴族と交流しているなんて。
なんだかベル……いえ、何でもないわ」
つい、ベルジャンヌ王女を見ているかのようと口を滑らせかけて、やめる。
「モニカ。
私もそう思ってしまったわ。
きっと公女が生まれた日が、王女の生まれた日だったから……」
言い淀むブランジュに、結局、私の意図をブランジュが読み取ってしまったのね、と思わず苦笑してしまった。
ロブール公女が生まれた日は、ベルジャンヌ王女が生まれた日。
そしてブランジュは、あえて口にしなかったのでしょうけれど、王女が白灰になった日でもある。
公女が生まれた日は、ロベニア国始まって以来の悪天候だった。
あの日も例年通り、私とブランジュで王女が生前暮らしていた離宮へ赴き、花を手向けていたから覚えている。
ロブール家に誕生した公女が、王女と同じ日に生まれていたと知った時は、もしやと期待した。
王女が帰ってきたのではないかと……。
実は内密に、シャローナ夫人と連絡を取り、生まれたばかりの公女に会いに行ったのだ。
確かめずにはいられなかった。
会ってみて、四大公爵家の令嬢でありながら、恐ろしいほど魔力の少ない赤子だとすぐにわかった。
四大公爵家に生まれたからこそ、そんな魔力量である赤子の行く末を、心配もした。
同時に、王女のような魔力量でなかった事で、落胆した自分もいた。
王女は生まれた時から、魔力量が多かったから……。
王女の魔力量については、一部の人間なら大抵は知っている。
だから無意識に公女と王女を比較して、王女との決定的な違いに落胆していた。
ただ1つ。
公女の藍色の瞳は、金環がなくとも王女と同じく澄んでいるように見えた。
公女の祖母と同じ色なのに、不思議と王女の瞳を彷彿とさせて、魅入られていた。
公女が藍色の瞳で、私をじっと見つめてくる内に、落胆などという身勝手さを赤子に向けた自分が、恥ずかしくなってしまった。
あの時は、それを誤魔化したくなったのよね。
夫人が少しの間、私に公女を任せて席を外した時。
腕に抱いた公女に向かって、つい王女への初恋と懺悔を、そしてブランジュへの想いを口にしていた。
私が内密に、それも突然に近いタイミングで、ロブール家を訪れたのもあり、部屋は人払いして、誰もいなかった。
とはいえ夫人がいつ戻ってくるか、わからない。
だから王女の名前だけは出さなかったけれど。
私の言葉を理解できるはずがない公女は、終始無言。
まるで聞き入っているかのように、つぶらな瞳でじっと見ていた。
あの日からほどなくして、夫人により、公女が生まれたと公表された。
けれど……今にして思えば、公女の母親であるルシアナが、強く拒否したのね。
高位貴族ならやりそうな、公女の生誕祝いがロブール家で開かれる事もなく……。
更にロブール家には、誕生日を祝うという概念が、昔からほとんどない。
息子に代を譲った先代当主夫妻も王都から離れてしまい、公女は今も、社交の場から最も遠い、尊い血筋扱い。
まるで王女のようだと、こんな環境まで王女と似なくとも、と公女を哀れに感じてしまうのは、赤子だった公女を腕に抱いたからかもしれない。
「ところで公女。
クリスタに何を渡しましたの?」
バルリーガ嬢が、不意に話を変えた。
先ほどまでの少女達は、たわいない挨拶から入り、学園再開の目処がたった等々と、主にバルリーガ嬢が朗らかに近況報告をしていたというのに。
けれど顔を見合わせた私とブランジュは、今からが今日の逢瀬の本題だろうと頷き合った。
ご覧いただき、ありがとうございます。
ラビアンジェ誕生の日の悪天候は、No.179に。
気になりましたら、ご覧下さい。
モニカの懺悔は……ええ、もちろん赤ん坊のラビアンジェは、赤ん坊なりに目をしょぼしょぼ開けて、前世から引き連れた煩悩を満たすべく、しっかり聞いてましたよ。
【亡国王妃が奏でる百合の旋律〜初恋の妹と生涯の想い人】爆誕のきっかけです( ´艸`)
モニカはやべえ赤ん坊とは知らず、話しちゃってたんですよ(*´д`*)