「A級冒険者、カイン=アケプ。
冒険者ギルド本部から調査依頼を受け、謁見に参りました。
こちらに控えているのは、此度の依頼にあたり、ギルドが私につけた従者。
その為、紹介は控えさせていただきます。
ご承知おき下さい」
背後にライェビストと宰相を従えた余は、予定通りA級冒険者カインと謁見した。
高ランクの冒険者であり、ギルド本部を通しての謁見。
それ故、国王である余に膝を突く事はない。
後ろの従者も、それは同じだ。
確かカインは、元他国の公爵令息。
今は同国辺境伯の養子となった上で、養母が持っていた子爵位を継いでおる。
A級冒険者個人を一々覚えておったりは、普通せぬ。
しかし、この男は特殊な事情を抱えておる。
故に記憶にあった。
この男の後ろ盾には、S級冒険者がついておるのだ。
国家の要人、その中でも政治の中心におる者だけは、S級冒険者の情報を最低限公開される。
そしてS級冒険者への依頼は、必ずギルド本部を介さねばならない。
そしてS級冒険者が依頼されて動く場合には、時にS級冒険者自身が後ろ盾を務める冒険者に代行させる場合がある。
この男は今、ギルド本部からの依頼と口にした。
つまり此度の謁見は、ギルドがS級冒険者に何かを依頼した可能性が高い。
つまりS級冒険者の代行として、カインが余との謁見を申し入れたという事だ。
S級冒険者の存在は、秘匿扱い。
経歴は全て消され、冒険者としては一度死んだ事にされる場合もある。
戸籍も抹消されるか、死亡扱いがほとんど。
例外は、そもそも初めから周囲に実力を認知されておらぬ場合だ。
そうそうある事ではない。
しかしその場合、もしくはそれに準ずると認められた場合だけ、元の戸籍を隠れ蓑のようにして使う選択肢が生まれる。
無論、いかなる場合においても、本人がS級冒険者となるのに同意した場合の選択だ。
その上でS級冒険者には、二つ名が改めてつけられる。
この男の後ろ盾を務めるS級冒険者のコードネームは、鮮血の魔女。
噂では髪と瞳だけでなく、肌の色も赤いと聞いておる。
災害級の魔獣とされる古代竜を、討伐するでもなく従えておる話は有名。
そこまで考えて、カインの後ろに控えるローブ姿の従者を見る。
フードを目深に被り、顔も体の線もわからぬ。
小柄な体躯である事だけはわかるが、これでは性別すらもわからぬ。
ローブから出ている手は、一般的な肌色だ。
もしや鮮血の魔女か、と思わぬでもない。
しかし噂のような肌の色でもない。
こっそり魔法で鑑定する限り、魔力量はカインより少ないが……。
とはいえ我が国の公女である、ラビアンジェ=ロブールのような事例もある。
一般常識だけで、判断はできぬ。
従者の方をじっと見つめておれば、カインが一歩前に出て、収納魔鞄らしき腰のポーチから、青紫色の縄を取り出した。
「まずはこの縄……網かもしれませんが、確認していただきたい」
そう言って差し出された縄を、宰相が受け取る。
宰相は危険物でない事を確認してから、余の前に差し出した。
それとなく宰相と視線を交わせば、宰相の目は心なしか泳いでいる。
ポーカーフェイスを決めこむ顔つきではあったが、動揺が窺い知れた。
縄は一見すると、網のような形状だ。
しかし網目は全く細かくない。
網の中に対象物を入れこめば、亀の甲羅のような模様となって縛りつけるであろうな。
何故、余がそうなると知っておるのか。
それは学園祭で起きた事件の調査報告で、一部の学生がコレと同じような魔法具を使用したとあったからだ。
そしてふざけておるとしか思えぬ起動ワードも、発動した縄が何故か震えるのも、そもそもこの魔法具の製作者が誰かも、もちろん報告書に書いておった。
無論、この縄が余の思う通りの魔法具であればの話。
そうでない事を切に願いつつ……。
「…………これは?」
と宰相同様、動揺を隠し、声も視線も細心の注意を払い、余の国王人生の中でも稀に見る努力で、ポーカーフェイスを顔面に貼りつけたのは、言うまでもない。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
この魔法具の使用方法は、№489に書いてあります( ´∀`)