「ところでロベニア国王陛下。
この魔法具には、起動ワードが設定されているはず」
カインの言葉に、余の前におる宰相の体が、僅かにピクリと震える。
余は何の反応もせぬまま、未だライェビストが手にする、網なる魔法具の情報開示範囲を思い起こす。
魔法具を製作したロブール公女は、学生の身。
そうであるが故、魔法具を登録していても、情報の開示は限定的にしておる。
もちろん当人と協議の末の措置。
これは魔法具科に所属する、その他の学生も同じ。
学園を卒業した際、改めて製作者本人が開示範囲を選び、登録を修正する事が可能になる。
此度の魔法具であれば、開示範囲は魔法具の概要のみ。
製作者名の他、実際に使う為の起動ワードは開示できぬようにしてある。
製作者保護観点からの制限が、こんなところで余らへ有益に働くとはな。
何が有益なのかは、この際、考えぬ事にするが……。
「しかしギルド本部が調べた限り、製作者名と起動ワードが何なのか、伏せられ……」
「見つけた」
情報開示を求めそうな、不穏な気配を放つカインの言葉は、しかし冒険者ギルド側の人間である従者が遮った。
どうやら体格から推察しておった通り、ローブの中は女性――それも若い女性らしい。
声のした方を見れば、カインの従者が壁の方を向いておる。
それよりも……見つけた?
「……今は謁見中だ」
ため息を吐いたカインは、後ろを振り返り様、従者に告げる。
「目的は、見つける事よ?」
カインの言葉に従者が首を傾げた。
すると目深に被っていた従者のフードが少しずれ、どちらかといえば可愛らしい系統の顔が現れた。
従者の瞳は、どこか魔獣の瞳を彷彿とさせる赤みがある。
透明感のある血色に、魔獣の赤色が混じったような色と言うべきか?
その瞳に、もしやと思う。
S級冒険者では?
直後、従者から微かな魔法の発動を感じた。
しかしライェビストが従者に向かって阻害する措置を取る。
従者はライェビストを見やるも、カインが従者の視線を遮るように立ちはだかる。
同時に余の前には、宰相が己の背で余を庇うようにして立つ。
カインがそれぞれの手を、従者の両肩に置いた。
「その為に、謁見している。
頼むから、今は大人しくしてくれ。
ギルド本部が正式な手順で、国王に謁見申請を出すから、くれぐれも、立ってるだけにしろって、念押ししただろう。
な?」
カインがフードの中を覗き込みながら、言い聞かせるように発言する。
「国王陛下、申し訳ありません。
この者は、索敵魔法を展開しようとしただけです。
決して誰かに害のあるような魔法を、行使しようとしたわけではありません」
余に背を向けたままのカインが、謝罪と説明をする。
「従者ではなかったのですか」
宰相が非難するかのような口調で、カインを咎める。
今度は従者が、肩に置かれたカインの手をすり抜けるようにして、一歩前に出た。
「今日はカインの従者よ。
ギルド本部からも、そう依頼を受けたから、嘘は吐いてない、モガッ……」
「従者は、勝手に発言しない。
主人の言葉を、自由に遮ったりしない。
ったく、ギルドも適材適所を考えて依頼しろよな。
とりあえず、もう正体を明かすからな。
はあ、結局こうなったか」
従者、いや、従者と称した者の口元を、カインが後ろから物理的に片手で塞ぐ。
ため息を吐き、諦めたように、というより、途中から愚痴をこぼしておらぬか?
カインは空いた手で、自分の目線より下にあるローブのフードを下げる。
すると白をベースに、薄く赤みがかった髪が顕わになる。
「やはりS級冒険者【鮮血の魔女】殿か」
どうやら宰相も、ローブの人物に当たりをつけておったようだ。
「左様です。
スタンピードを沈めた者がS級――つまり災害級の実力者であると仮定します。
こちらが攻撃されるようなアクシデントが起これば、対抗できるのはS級冒険者だけになりますから」
「攻撃される事態が想定され得る接触を、されると?」
宰相がやや警戒した口調になったが、恐らく、それは宰相の杞憂にすぎない。
冒険者ギルド本部がS級冒険者を欲するのは、もちろんその力をギルドの為に使いたい側面もある。
しかし世情的に仕方ない部分があり、当然とも言える。
ある意味、災害級の実力者を保護しつつ、保護する者と社会との橋渡しをする役割も担っておるのだ。
それほどS級冒険者となり得る者は、強すぎる能力故に……まあ、大抵の場合、性格が破た、んんっ。
いや、個性的な性格をしておるのだ。
ライェビストも、そして娘の公女も、その気になればS級冒険者となれるであろうが、両者共……まあ、個性的よな。
そして目の前の鮮血の魔女よ。
短いやり取りではあるが、そなたも個性的な性格をしておるな。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
お気持ち程度に足首付近の骨がちょろっと折れたり、家族の体調不良が重なったりで、今週と来週の更新は1回ずつになりそうです(;´Д`)
カクヨムの方が先行更新しているので、更に先をご覧になりたい、待てないという方は、そちらをご覧下さいm(_ _)m