「無理矢理、S級冒険者に勧誘するつもりであったと?」
宰相がライェビストを視界に入れつつ、カインに向かって言葉を重ねた。
ライェビストは娘の公女に対し、一般的ではない範囲かもしれぬが、少なからず父性を抱いておる。
恐らく宰相も余と同じく、ライェビストを見ていてそう感じておる故に、カインだけでなく、ライェビストも視界に入れて話しておると察する。
カインの発言次第では、ライェビストが娘の為に、冒険者ギルド側の人間を攻撃する可能性を配慮に入れておる。
余とライェビストと違い、宰相は公女の実力を知らぬのだ。
宰相の中では、大した魔法を使えぬ娘への庇護欲から、ライェビストが動くかもしれぬと考えたのであろうな。
どちらにしろロベニア国としては、冒険者ギルドの本部から派遣された者――それも1人はS級冒険者だ――の機嫌を損ねる事はしたくない。
とはいえ、公女を冒険者ギルドの好きにさせるつもりは、余にもない。
故に冒険者ギルドとの関係が拗れても、カインの話す内容によっては、協力を断るつもりだ。
「それはありません。
選択は本人の自由。
しかし災害級の実力者ともなれば、己を利用しようとする者に狙われた事も、時には裏切られた事もあったと考えて接するべきかと。
これまでに関わってきた他者との関係性、そして当人の性格的な問題、または能力が大きい故に、故意でなくとも己の言動を破壊行動と取られ、誤解を生じさせた場合もあった可能性が高い」
性格的な問題に、破壊行動と取られかねぬ、なあ……。
鮮血の魔女に視線をやりそうな衝動を堪える。
10年近く前。
確か鮮血の魔女がS級冒険者となり、さほど何年も経たぬ頃であったか。
その頃、海を渡って我が国に届いた鮮血の魔女に関わる噂は、色々と……。
「なので冒険者ギルドでは、本部がS級冒険者に確認を依頼し、場合によっては保護と勧誘だけでなく、指導を行います。
この事は秘匿していないので、ご存知かと」
カインの言葉に、余も宰相も頷き、宰相が肩の力を抜いた。
逆に国家が災害級の能力保持者に、そうする場合もある。
その場合、国に所属する騎士や魔法師に任命するが、当然ながら手に負えぬ場合もある。
能力者があまりにも害悪に曝されて生きておった場合には、そもそも他者と話す事すら拒絶し、敵意を振りまく事も多い。
その際には、対象者は魔法で隷属する事もあれば、最悪、討伐された事例もある。
災害級の能力者と言えど、野放し状態で育った者なら、不可能ではない。
国中の実力者が団結すれば、先天的な能力差を経験値で補完し、討伐できる場合もあるのだ。
もちろんそれができねば、冒険者ギルド本部を通してS級冒険者に依頼を出す。
依頼料は高額となろうが。
そうした背景から冒険者ギルド側も、災害級の能力者の存在を確認すれば、1番穏便に済むよう、ギルドで囲うS級冒険者に依頼して、災害級の能力者を秘密裏かつ、いち早く確保する方向に動く。
カインの言葉で此度の謁見は、公女に何らかの立場を強要するものではないと確信する。
「ですので、その網を……ロブール魔法師団長、懐に仕舞った網は、こちらの拾得物です。
返して下さい」
そういえば少し前、カインが網を持っていたライェビストに返せと言外に告げるようにして手を差し出しておったな。
どさくさに紛れ、懐に仕舞っておったか。
ライェビストよ。
大方、網を分解して遊ぶつもりであったな。
そんな事をせずとも、普通に公女へ頼めば良かろうに……。
「ライェビスト」
「チッ」
「国王に舌打ち……」
余の命じで舌打ちしたライェビストに、カインがボソリと呟きつつ、ライェビストが返却した網を受け取る。
カインよ、我が国の実力者たる魔法馬鹿、いや、魔法師団長はそんな男なのだ。
「んんっ。
それで、なのですが」
わざとらしい咳払いを1つして、カインが余を見る。
「この網を製作した者を紹介下さい。
冒険者ギルド本部からの、正式な情報開示請求と……」
「ああ、そんな事を知りたかったのか。
その網を作ったのは、私の娘だ。
用がそれだけなら、そろそろ私は研究に戻りたいのだが?」
ライェビストー!
そなた、そなた、そなたー!
大方、娘の作った魔法具に何かしらのインスピレーションを触発されたのであろう!
この、魔法馬鹿めがー!
カインの言葉を途中で遮ったライェビストに、余は鋼の精神で表情を変えぬまま、心の中で絶叫した。
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鮮血の魔女の噂の1つはコチラに⬇
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