ミハイル視点です。
「それで?
少し前に起こりかけた、海の魔獣によるスタンピードが、私の妹の魔法具を使い、沈静化された可能性が高いと?」
俺は今、王城の馬車に乗ってロブール邸に戻ろうとしていた。
馬車には俺の他に、3人乗っている。
小柄な1人を除き、全員がそれなりにガタイが良い。
特に俺の斜め前にいるのは、冒険者の間で【剣聖】と呼ばれる有名なA級冒険者だ。
服を着ていても窺い知れる鍛えた肉体は、分厚い。
それが余計、車内をむさ苦し、んんっ、暑苦し、んんっ、存在感を主張する。
俺もレジルスも、実は冒険者登録をしている。
この場にいないが、ウォートン=ニルティも含め、パーティーを組んで活動していた時期がある。
だから初対面とはいえ、斜め前に座るカイン=アケプが、S級冒険者の後ろ盾を得ている事を知っていた。
「ああ。
君の父君から、この魔法具の製作者が君の妹君だと聞いた。
俺達の正体も含めて国王陛下直々説明されたはずだ。
ところで何故、第1王子はうちのS級冒険者を見つめている?」
そう言って、カインが目の前に座るレジルスを睨む。
ただでさえ、俺の頭は混乱している。
馬車に乗る前から、何ならレジルスの執務室にいた時から、突然やってきた国王陛下直々の説明を受けて、もう既に混乱していた。
俺の妹、何やった?!
そして俺の父親、何してる?!
カイン氏が見せた、青紫色の魔法具。
実はヘインズから、チラッと聞いていた。
何ならヘインズと妹が引き篭もり、いかがわしかったり、いかがわしさはセーフだが破廉恥が常備された何かをしているアトリエでも、無造作に置かれていた実物らしき青紫色の物を見た。
いかがわしい目的で妹が作っただろう、魔法具だ。
妹が改良と量産しつつある、ヤベえブツだ。
間違いない。
何でソレが、スタンピードを鎮められたのか。
妹が世に放ついかがわしさは、荒れ狂う魔獣達をも凌駕するのか。
正直、皆目見当がつかない。
だがスタンピードが起こりかけたという、日時と場所に、妹の存在を感じる。
ああ……もう1度、いや、何度だって心の中だけでも叫びたい。
俺の妹、何やった?!
ついでに俺の父親、頼りにならない魔法馬鹿だな!
しわ寄せを俺に全部寄越すの止めてくれ!
そんな俺の内心など、この場にいる、俺を除いた3人は、知る由どころか、興味の欠片もないようだ。
勘弁して欲しい。
__ギリギリギリギリ……。
レジルスはS級冒険者を、いや、本当は彼女だけでなく、カイン氏共々睨んでいる。
一応、一国の王子だ。
歯ぎしり止めろ。
ドス黒いオーラを振りまくな。
そもそもレジルスまでついて来る必要、なかっただろう。
何なら陛下達が来る前、妹はバルリーガ嬢と密会した後にお礼の手土産持って、俺達のいる執務室へ挨拶に来た時、挨拶は済ませたはずだ。
隙あらば妹と話そうと、便乗するな。
__スヨスヨ……。
S級冒険者である鮮血の魔女よ。
流石だな。
こんな得体の知れない状況なのに、フードを浅く被り、薄赤い髪色をした鮮血の魔女は、隣のカイン氏にもたれて居眠りだ。
鮮血の魔女に関する噂も、もちろん知っている。
もっとおどろおどろしい雰囲気かと思っていたが、外見は可愛らしい印象を受ける。
カイン氏と並ぶと、余計にチマッとしているように見える。
しかし俺の妹のように、起きて動いていると大きく感じる。
恐らく周囲にいる者が無意識的に忌避してしまうくらい、魔力量が多いのだろう。
「忠告しておく。
惚れるのは許さない。
見つめるな。
潰すぞ」
レジルスに釘を刺したカイン氏よ。
レジルスが誰に惚れたと思っての発言だ。
更に何を潰すつもりだ。
そもそもレジルスは、初恋の妹に恋する初恋馬鹿だ。
このドス黒いオーラは、むしろカイン氏だけでなく、鮮血の魔女にも向けた勘違いした憶測による嫉妬心からだ。
そしてカイン氏。
レジルスと同じくドス黒いオーラを放っているが、お前も何かしらの【ナンチャラ馬鹿】なんだな。
そうなんだろう。