「飛び魚の串焼きと言ったか……」
「左様ですわ。
塩とも相性が良くて、美味しいんですの。
冷凍保存してましたが、皆さん喜んでいただけて何よりですわ」
検分するように質問するカイン氏の言葉だが、妹は気にする様子もなく答える。
まずい。
スタンピードを鎮めたのが妹だと、下手をすればバレてしまう。
「この辺りでは飛来魚ではなく、トビウオと言うらしいな。
この網の使い方は知っているか?」
「ん?
飛び魚は、飛び魚ですわよね?
網?
ああ、これは簡単装着できるようにしてある亀甲縛りの縄ね」
「縄……キッコウ縛り?
何だ、それは?
まずはどう使うか、教えてもらえるか?」
「はっ、待って……」
製作者は今さら誤魔化せない。
しかし使い方を教える前に、妹とどこまで情報を開示するか話し合いたい。
そう思っていたが故に、止めに入ったものの、遅かった。
「もちろん。
まずは魔石に魔力を通して『ひかえおろう!』で、縄を収納してから……」
柵越しなのもあり、俺の制止は届かない。
妹は渡された魔法具につけた魔石に、1度魔力を通し、起動ワード……何でそんな起動ワードなんだ……。
とにかく起動ワードを告げ、縄を収納する。
「ラビアンジェ、だから待て……」
「えいっ。
『お縄につけい!』」
再度制止するも、やはり届かぬまま、妹は肩にいた赤いミニドラゴンの背に、魔法具を乗せた。
「ギャギャッ?!
キュイ~、キュイ~ン」
途端、ドラゴンが驚きの鳴き声を上げ、更に恥ずかしそうに身をよじる。
ヤバイ……ヤバイ縄だ。
見た目がヤバイ。
ミニドラゴンに食いこむ場所……いや、とにかくヤバイ縄だ。
ドン引きしながら、俺は直感した。
これ……人間用じゃないのか?
縄の空いた部分は、ちょうど人の胸が……。
ミニドラゴンを縛る縄の形が、亀の甲羅のようにも見える。
気づけばレジルスが、それとなくドス黒い嫉妬を霧散させている。
おい、何で頰を赤らめている。
何を想像しやがった。
「まあまあ、これは水上バイク兼用の方ですわね?
そういえば……先日1つ、回収漏れてしまったのだけれど、もしかしてコレかしら?」
妹の言葉にただ絶句する。
水上バイクとやらが、どんな物かわからない。
しかしこの妹の事だ。
碌な代物じゃないだろう。
絶対、そうだろう。
そんな破廉恥ヤバイ、いかがわしい代物を回収漏れなんかするな。
「左様でしてよ。
飛び魚が群れていたので、その内の数匹に装着して、手持ちの縄で背面に持ち手をつけて。
水上バイクならぬ、水上立ち乗り飛び魚バイクにして、遊びましたの。
ちょうど飛び魚の羽の部分を出せそうだからと試してみたら、思った通りでしたわ。
飛び魚の背を両足で挟む形で立ち乗りしますのよ。
それでディアとピケも呼んで楽しんだものの、ディアが飛び魚から体を滑らせてしまって」
「ディアとピケ?」
「ええ。
私の可愛い子供達ですわ」
「子供?
公女は子供がいたのか?
隠し子?」
「ええ。
とっても可愛らしいんですのよ。
その時の飛び魚に装着していた縄ではないかしら」
何故か奇跡的に話が通じているが、ディアもピケも聖獣。
妹が産んだ子供では、決してない。
ついでに言えば、そこのドラゴン達を締め上げたのはピケだ、多分。
破壊された馬車を横目に、城で兵士は言った。
『蛇型魔獣が、ドラゴンを捕食しようとする様は、恐ろしかったです。
しかし、そんな3体の巨大な魔獣達の側で、微笑ましげな微笑を浮かべる公女が……俺を見る時の祖母を彷彿とさせる公女の微笑が……むしろ怖かったです』
そりゃ、そんな場面を見て微笑む少女がいたら、むしろ禍々しい光景に見えて恐ろしいだろうよ。
しかしソレ、俺の妹だ。
妹からすれば、可愛いピケのお食事シーンだったのだろうが……。
もちろん兵士にも、カイン氏にも説明はしていない。
妹が聖獣の契約者だと知られる事は、本人が1番望んでいないのだ。
「公女。
俺に贈ってくれたあの刺身は、その時の飛び魚だったのか?」
「左様でしてよ。
群れを牽引していた飛び魚ですわ。
大きく育っていて、宙を飛ぶには体が重く、私が乗るには、ほどよい大きさで。
その上、活きも良さそうだからと水上バイクにしましたのよ。
けれど私達が遊びすぎて、弱らせてしまったところに……」
レジルスの言葉で、当時の飛び魚を思い出したのか、妹が申し訳なげな表情になる。
飛び魚って魔獣だよな?
しかも人丈はあると言っていたぞ?
飛び魚の持久力は如何ほどかわからない。
しかし一体、どれだけ痛めつけた……。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
実は飛び魚水上バイクは、書籍3巻発売時の購入特典用SSの1つで出してました。
もし対象のSSをご覧いただいた方いましたら、遊び風景を思い出していただければと( ´艸`)