「ふ……ふふ……ふふふふふ!
よくぞ聞いて下さいましたわ!」
俺の問いに、セーフな方の変態顔から、溌剌とした笑顔になる妹。
貴族令嬢としては行き過ぎた笑顔だ。
しかし俺は、変態顔がなりを潜めた事に、とてつもない安堵を感じる!
「タッタラ~、【ガウガウホンヤクン】~」
「…………そうか」
どうしよう?
兄は困惑してしまったぞ。
妹が突如どうして、手の平に納まる大きさの何かを差し出しつつ、しゃがれ声を出したのか、全く理解できない。
妹の発した言語が、頭に入ってこな……。
「ほう、ホンヤクン……翻訳、君だな?
君とは雄の呼称か?
ガウガウは……あの小型化して、公女へ無駄に愛想を振り撒いていた竜の鳴き声を模したのか。
公女が手にしているのは、魔法具だな」
「レ、レジルス?!」
突如、降って湧いた声に、ドアの方を見やる。
……いつからそうしていた?
絶対、魔法で気配を殺していただろう。
開いたドアにもたれた状態だったレジルスは、悠然とした足取りで、妹の隣にならんだ。
妹の前だからと、格好つけるな。
この不法侵入者め。
お陰で妹とレジルス、双方の言葉が頭から吹っ飛びそうだ。
「左様ですわ!
ミルティアさんが望んだのは、というか、むしろクロちゃんとお花ちゃんの方が強く望んだのは、翻訳機ですの!
これには魔獣であるクロちゃんとお花ちゃんはもちろん、魔獣と人間の双方に意思疎通が取れる聖獣ちゃん達の協力が、必要不可欠!
つまり、私達の共同作業によって実現せし、愛の結晶!
鳴き声から意思疎通を図る、翻訳機でしてよ!」
レジルスの存在に微塵も動じない妹よ。
翻訳機を持ったまま、両手を左右の腰にそれぞれ置いて、レジルスに向かってドヤッと胸を張るな。
鼻高々だな。
大方、お前の大好きな聖獣達との仲の良さを、これでもかと自慢したかったんだろう。
聖獣とお前の関係を知る者は、ごく僅かだからな。
しかし何の効果だ?
レジルスは妹の「愛の結晶」発言あたりで、悪鬼のごとく顔を歪ませた。
なのに妹が、最後に特大の笑顔を振り撒いた途端、レジルスが頰を染め、顔を逸らせた。
やや、顔がヘナっているぞ?
初々しい乙女のような反応だ。
レジルスに、そんな表情ができる機能が備わっていた事に驚きだ。
しかし残念だが、俺はそんな妹には騙されない。
妹のそんな表情は、もちろん可愛い。
しかし絶対、騙されない。
なぜなら、先月くらいに見た、とある光景が頭をよぎったからだ。
ある日の山中で見た光景がな。
妹からは事前に数日、家を空けると言伝があった。
3日目の夕方になり、俺は妹を心配して迎えに行った。
見つけた時、夕日に照らされた妹は、聖獣キャスケットと、グリフォン姿の聖獣ヴァミリアの尻尾でしばかれていた。
その時のお前は、その魔法具を片手に持っていた!
毛の長い魔獣の腹毛を残念そうに、それはもう悲壮感を漂わせ、ガン見しながら、見送っていた!
解放されて去っていく魔獣の瞳は、安堵の色に染まっていた!
『せっかく私と意思疎通を図って、お腹を差し出したそうにしていたのに……』
『『そんなわけあるか(あるかい)!』』
妹と聖獣達は、確かそんな会話を交わしていた。
翻訳機……そうだな。
妹は元々、魔獣と意思疎通を図ろうと、かねてから翻訳機を製作していたんだろう。
先ほどの妹の話から、翻訳機を作るには、魔獣の協力も必要だったらしいな。
もちろんこれまでは、魔獣の協力を得られなかったはずだ。
希望的勘違いをする上に、隙あらば腹毛に吸い付こうとする、やべえ人間だ。
野生の魔獣が心を開くなど、あり得ない。
そして、そんなやべえ人間は、妹だけじゃない。
今日、途中参加したバーベキュー。
俺はS級冒険者という希有な存在を、ミルティア氏を、それとなく観察していた。
ミルティア氏も子飼いの竜達とは、何かと見当違いを起こし、時に竜達が半泣きになる場面が見受けられた。
余談だが竜達は、ずっとミニサイズだ。
半泣きで目を潤ませる様は、可愛かった。
ミルティア氏と妹は、そんな様子に様相を崩していたが、その度にレジルスとカイン氏が、ドス黒い感情を放っていた。
もちろん竜達にとっては、とんだ災難だ。
今しがた妹は、ミルティア氏よりも竜達が強く望んだと言っていた。
恐らく、そういう事だ。
妹とミルティア氏の共通点。
それは戦闘において絶対的強者であり、本人に都合が良いという意味での、希望的勘違いを起こして、罪なき者に二次被害を与える点に他ならない。
そんな勘違い強者である2人が、一体、何をどう取り引きしたのか。
正直、確認するのが恐ろしい……。
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作者は初代「僕、ドラ○○○~」の声イメージでした( ´艸`)