「おめでとう、バルリーガ嬢!」
「お待ちしておりましたわ、公女!
ありがとうございます」
突然現れた私を、バルリーガ嬢が迎えてくれる。
手にしていた花束を、早速バルリーガ嬢に差し出した。
すると花が咲いたように微笑んで、受け取ってくれた。
「アイリスの花束ですのね。
早咲きかしら?」
「ドラゴレナ夫妻が、開花を早めてくれましたのよ」
「まあ……恐悦至極の誉れですわね。
お礼をお伝え下さいませ」
バルリーガ嬢はR18本を通して、リアちゃんだけでなく、隊長と奥様ズの存在も知る事となった。
けれど隊長がバルリーガ嬢と会う事は滅多にない。
ただ隊長の奥様ズとは意気投合し、時々R18系オタ談義を話すまでの仲に発展している。
そんなバルリーガ嬢の頰は、ほのかに色づいているわ。
数週間前に秘密の部屋で会った時より、心なしか大人の色香も醸し出している。
更に部屋の奥へ目をやれば、ベッド横の床にうつ伏せで倒れる人物が。
「はあ……いつか詳しく聞きたいわ」
「え?」
「あらあら、ついうっかり心の声が。
お気になさらないで。
それより晴れて夫婦となったのに、お邪魔してしまったかしら?」
「まさか。
事前にご連絡いただいておりましたもの」
そう、私が今日のお昼に教会の廃神殿へ転移する事は、事前に伝えてあった。
バルリーガ嬢もそのつもりで、時間に合わせて床に転がる人物に、準備を施してくれたみたい。
「明後日でしたでしょう。
バルリーガ嬢がジョシュア元王子を夫として娶った事と、バルリーガ公爵家次期当主となる事を宣言するのは」
「ええ。
バルリーガ公爵家当主であるお父様を納得させる為に、ジョシュアの中に封緘された悪魔を体から出す事が条件ですけれど」
実はミルティアさんとの出会いが発生し、本来のプランを急きょ変更した。
そのせいで予定が数日、後ろ倒しになってしまった。
バルリーガ嬢が、それとなく私の様子を窺うのも、致し方ない。
「準備に時間がかかってしまったけれど、問題なくてよ。
国王陛下も教皇も、バルリーガ嬢が当主を継ぐのを後押ししていただけて良かったですわね」
すると私の言葉に、バルリーガ嬢がほっとしつつも、パアッと花が咲くように微笑んだ。
「これもまた、公女のお陰でしてよ。
ジョシュアが従順になり、かつ大公という身分を与えられませんでしたわ。
もちろん表向きは、ジョシュアが難病を患い、大公としての責を全うできないとされておりますが。
なので大々的な結婚式は、致しません。
昨日、身内だけの少人数が参加する、教会式を挙げられただけで十分。
教皇からも祝福をいただけましたし。
お父様は、娘である私が王家の血筋を当家に残す事には賛成ですわ。
けれど大公という身分の男が、バルリーガ公爵家に入る事は敬遠してまいりました。
あくまで実権を握るのは、バルリーガ公爵家の血を継ぐ私であって欲しかったのです」
「つまりバルリーガ嬢が当主となり、夫より先に死んだ場合、夫が実権を握る事がないようにしたかった、という事ですわね」
「ええ。
ジョシュアが大公の身分を得てしまえば、最悪、バルリーガ公爵家はジョシュアを通し、実権が王家に取りこまれてしまう可能性がありますもの。
けれど今のジョシュアは、あくまで種だけが良い馬。
最低限の利用価値はあれど、王家にとっても当家にとっても、害にはならない立場。
ですから生死別は何であれ、私と別れれば平民となるだけ。
そして今ではもう、ジョシュア自身に価値を見いだせるのも私だけ。
あくまで私が、ジョシュアの生殺与奪権を握っている……ああ、なんて幸せなのかしら」
うっとりほくそ笑むバルリーガ嬢。
どうしてかしら?
瞳の色がほの暗く見える不思議現象が、絶賛発生中ね?
とはいえ、そんな事は些事。
「左様ですのね。
幸せそうな笑みに、私も安堵しましてよ。
それでは、そろそろ……」
「ええ。
私の方からも、是非お願いしますわ」
2人して頷き合い、部屋の奥へと視線をやる。
私達の視線の先には、背中を中心に全身蝋まみれになって眠る、パンツ一丁男がいた。
至福と恍惚の笑みを浮かべている。