「あらあら、とっても幸せなお顔ね。
よっぽど気持ち良かったようで、何よりね」
近くに寄れば寄るほど、うつ伏せのパンツ一丁男の顔色の良さが見て取れる。
蝋で埋もれた背中の魔方陣を、少し観察する。
この魔方陣は、私が学園祭で刻んだ封緘の魔方陣だけれど、しっかり機能しているよう。
元王子の顔色よし、封緘もしっかり効いている、更に満足そうに頷いているバルリーガ嬢。
皆が皆、大満足!
これでこそ、魔法具を作った甲斐があるというものよ!
『言葉の使い方……』
なのに私の内側に宿るアヴォイドの念話が、どうしてか不服そう?
不服そうというより、引いているわ?
思わず首を傾げた、その時。
「……ぅ……ん……ん?
な、なんで?!
ラ、ラララ、ラビアンジェ?!」
元王子がお目覚めね。
寝起きなのに、俊敏な動きで起き上がろうと……。
「ステイ!」
――バシン!
「あぁっ……」
いつの間に?
バルリーガ嬢が長鞭を片手に、女王様的貫禄で元王子へと歩み寄る。
元王子は背中を鞭打たれた瞬間、再び床に沈んだ。
『悲鳴に喜びを載せるとは……器用な子孫だ』
更なるドン引き具合のアヴォイドは、初代国王の子孫だと言いたいみたい。
『素敵な魔法具に、メロメロなのよ』
『意味がわからない』
アヴォイドと念話をしている間にも、バルリーガ嬢は手慣れた様子で、ベッド横の燭台を手に取る。
燭台には、使いかけの蝋がセットされていた。
途端、元王子の視線が燭台に向かう。
視線には、期待が混じっている。
「まさか妻の前で、元婚約者を気にするなんて。
悪い子」
「ち、ちがっ……」
すうっと目を細めるバルリーガ嬢と、焦って再び体を起こそうとする元王子。
――バシン!
「はぅん!」
「ステイ!
駄目な子。
ジョシュア、欲しいのでしょう?
何をすべきか、わかっているわね?
ほら、早くなさい。
他の誰かに使ってしまうわよ?」
「そ、そんな?!
待ってくれ……」
「ステイ!」
――バシン!
「はうぅ!」
「言葉遣い」
「待って下さい、私の麗しいご主人様!
今すぐお点けしますから!」
焦る元王子は、すっかり言葉遣いも調教済みだったなんて!
バルリーガ嬢ったら、私の書いたR18作品をリスペクトしてくれたに違いないわ!
『興奮しちゃうわ!』
『ラビアンジェよ、人によっては違う方の興奮と取りかねん。
自重せよ……』
なんて念話をしている間にも、元王子はゴクリと喉を鳴らし、物欲しそうな目でバルリーガ嬢を見た後、魔法で蝋燭に火を灯す。
ジジッと点いた火が大きくなる様を、元王子は恍惚の表情を浮かべて見始めた。
『……何を見せられているんだ』
『ほら、よく見て?
ここからが、私の魔法具の真骨頂よ』
「ジョシュア、【グッド】」
見せ場をアヴォイドに伝えた時、バルリーガ嬢の言葉に呼応して、鞭が先割れた短鞭へと変化する。
手にした燭台が傾き、蝋が魔方陣の上へと溢れた。
「ああ……気持ちいい!
気持ちいいです、ご主人様!」
「ジョシュア、【ご褒美】よ」
――バシン!
【ご褒美】の言葉と共に、背中に鞭が打ちつけられた。
すると魔法具が起動。
元から背中に盛られていた蝋ごと、蝋が変質しながら水となって溶け、元王子をビシャビシャに濡らす。
二呼吸後、背中の魔方陣が銀色に光り、水を一瞬で吸収した。
『……どんな原理と使い方で、魔方陣を強化しておる……』
『聖水効果風よ!
蝋はディアと隊長の魔法で成長させた椿の油に、隊長の奥様ズの花粉を混ぜているわ!
そこにラグちゃんの魔力で出した水に、ピケのクシャミで出た鼻水を混ぜて、蝋と練り込みつつ、キャスちゃんの抜け毛を寄って蝋芯に使ったの!』
『……は、鼻水?』
『程よく粘性が出て、蝋も固まりやすくなったわ!
鞭は【ザ・鞭】を特別製に改良した物だけれど、ハイヨの蔦を1本混ぜて、蝋と鞭、魔方陣の親和性を高めてあるの。
皆で協力してできた魔法具が、SとMなる素敵浄化強化魔法具グッズとなったのよ!』
『……貴重な素材が……』
『そうでしょう!
なかなか量産できない、とっても貴重な魔法具よ!
しかも蝋の融点は低いから、火傷なし!
むしろパラフィン効果で背中や、飛び散って顔に付いた皮膚が潤って、艶肌効果もあるの!
使用者であるバルリーガ嬢の手に付いたら、それはそれで潤いハンドになっちゃう優れ物!』
『……そ、そうか……落ち着け。
無言で鼻息を荒くしていると、違う意味で興奮していると勘違いされる。
中身はともかく、お前は年頃の少女……』
まあまあ、念話とはいえ、魔法具の説明をしている内に、ついうっかりと興奮してしまったわね。