「それじゃあ、アヴォイド」
公女の呼びかけに応じるように、アヴォイドと呼ばれた金色の粒子が、公女の2倍近くに大きく膨れ上がる。
かと思えば、その姿を露わにした。
アヴォイドは、毛の長い、立派な象牙を持った象であったのか。
アヴォイドは前へと進み、公女と向かい合う。
同時に、ジャビが動こうとしたが、公女が何かしら干渉したのであろう。
突如ジャビの足下に、白いリコリスが生える。
リコリスはジャビに絡みつくように伸びて、花開き、白銀の花粉を放つ。
途端、ジャビは口を噤み、大人しくなった。
鑑定すると、花粉には聖獣の力を込めた浄化作用がある。
「ほう」
尚、隣のライェビストが魔法馬鹿らしい、愉悦の言葉を漏らした。
もちろん余は、見ざる、聞かざる、言わざるを貫く。
「良いのか?
お前だけは、ロベニア国建国より関わる、全ての者に復讐する権利があるはず」
「そもそも復讐になんて、興味ないわ。
そんな人生、楽しくないじゃない。
もしも最初から正してしまえるとしても、私は前世で旦那さんや家族と出会えなくなってしまうもの。
何よりベルジャンヌが自覚しないまま負っていた心の傷はね、月和の両親が癒してくれたのよ。
そしてベルジャンヌが得られなかった、誰かと人生を共に歩む経験は、影虎が生涯を通してさせてくれた。
家族を失って胸を痛める経験も、両親と影虎に教わった。
そんな月和を癒してくれたのもまた、月和の家族だったわ。
けれど魂を通じて【私】を支えて続けてくれたのは、アヴォイド。
あなたから始まり、ベルジャンヌからラビアンジェになった今に至るまで、聖獣であるあなた達よ。
そもそもベルジャンヌを直接虐げたオルバンスとスリアーダ、その他諸々には、ベルジャンヌだった【私】が言葉そのまま、鉄拳制裁しているわ。
ふふふ、今でもあの時の爽快感は忘れていないわ。
お兄様達が、いくらかの過去を変える前も、後もね」
公女が思い出したかのような、うっとりとした笑みを溢す。
確かに余も、アヴォイドが尋ねたのと同じ事を、かつて公女に問うた事がある。
あれはロブール公子達が、学園祭で過去に渡る前。
公女が異形の姿となった、自身の母親であるルシアナを浄化し、葬ったあの日だ。
あの日も公女は、余に同じ事を話しておった。
復讐は自分の手でしなければ、意味がないと。
そしてベルジャンヌは自ら、オルバンスとスリアーダを殴ったから、もう良いのだと。
ヒュシスは公女の笑みを見て、「そうでしょうとも。わかるわ」と言わんばかりの表情で、頷いた。
そうよな。
先程ジャビに何度も往復ビンタをして、公女から勝者を宣言されたのは、他ならぬヒュシスであったな。
「復讐心はそもそもないのだけれど、ベルジャンヌであり、ラビアンジェでもある私のご先祖様達のやり取りを見ていて、これはこれでスカッとはしたわね」
くすくすと笑う公女は、先程から口を開いて動こうとするジャビに、何かしら干渉しておる。
「だからね、アヴォイド。
後の事は、あなたとヒュシスに任せるわ。
どのみちもう二度と、あなた達は私の許可なくこの世界から出られない。
ここは私が創造した世界。
私こそが、この世界の神ですもの」
そう言って、公女はジャビの前に立った。
「ジャビ、いえ、ヴェヌシス」
公女がジャビの真実の名を口にする。
ジャビが驚きに目を瞠る。
それはそうだろう。
初代国王ヴェヌシスの名を封じ、ヒュシスを女神として祀った2代目のロベニア国王。
それらは全て、悪魔となった初代国王ヴェヌシスを弱体化させる為。
そして自らの魂ごとヴェヌシスを封じたヒュシスの力を増す為。
「そう、か……ヴェヌシス……俺の名は……ヴェヌシスだ」
ジャビは噛みしめるように、己の名を呟く。
しかし恐れていたような、つまり悪魔としての力を取り戻す、もしくは凶悪さを増す素振りは見られない。
公女の言う通り、この世界における公女が、絶対的な神故に、防いでおるのか?
それともヒュシスの魂が側に在る事が、何かしらの影響を与えておるのか?
いや、そのどちらもだと、余の勘は告げておる。
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珍しく(大部分が)シリアスですヾ(≧∇≦)
ええ、皆様、シリアス回ですよ、シリアス回!
国王がラビアンジェと会話した内容は、№412に。
興味がありましたら、ご覧下さい。