「ふふふ、よくぞお聞きになって下さいましたわ!
この度【夜鳴る魔法具店】という、アダルト、んんっ、大人向けの通販店を開きましたのよ。
もちろん魔法具以外にも、セクシー、んんっ、魅力的な服も販売しております」
夜……なる……鳴る?
何を鳴らす魔法具だ?
というかラビアンジェよ。
合間にナニを言い直している?
「ちなみに大人とは、既に婚姻された方を除き、満18才となった方。
私の独断と偏見で、そのように認定しておりますのよ。
ロベニア国の成人は15才ですから、婚姻された方は致し方ありません。
ですが基本的なお客様は、18才になった方からを対象としましたの」
大人向け?
18才?
対象年齢の下限値が、かなり細かく、かつ明確に設定されている、その意図とは……。
というか通販とは何だ?
「ラビアンジェ……言葉の響きとお前の性癖、んんっ、性格を鑑みるに、嫌な予感しかしないのだが……」
「ふふふ、お褒めいただいて、照れてしまいますわ」
「……」
決して褒めてはいない。
そしてラビアンジェよ、何故お前は、頬を染めた?
俺は知っている。
こんな顔をしている時のお前は、いわゆる変態。
いかがわしい何かに情熱を注ぎ、俺の想像を遥かに越えた何かに、もの凄い勢いで着手している。
いや、着手など、とうに終わって……。
「小説家トワが少し前から、一部の方向けにですが、R18小説を書いておりますの。
R18小説のハンドネームは、虎和としましたのよ」
トワが、結局、とわなのか?
「読み方をわからないよう、ロゴ表記風にしておりますわ。
【虎和】と書いて、【とわ】と読みますのよ」
そう言って、ラビアンジェが机の上にあるペンとメモ用紙を取り、慣れた手つきで【虎和】と書く。
なるほど。
恐らくこの文字は、前世のラビアンジェと関連ある名前なのだろう。
意味はわからないが、文字を見つめるラビアンジェの瞳は、とても優しく、慈しんでいるかのように感じた。
「ですから虎和とのコラボ店で生まれた、アダルト、んんっ、大人の夜を楽しく後押しする魔法具グッズを販売したら、バルリーガ公爵家やA級冒険者カイン氏を筆頭に、もの凄い勢いで売れに売れ、何故か王太后と先代王妃が【夜鳴る魔法具店】の後見となり――」
んん?!
ラビアンジェの口から、めちゃくちゃ気になる人物達の存在が出なかったか?!
「大反響で開店当日に売り切れ続出。
通販システムを構築した魔法具製作も評価され、経済効果が認められましたの。
あ、ちなみに小説に関してはトワも虎和も、作者の特定はされてませんのよ。
あくまで虎和との正規コラボ店という形を取っております。
なので【夜鳴る魔法具店】での業績も含めた、通販システムこみこみで王太合と先代王妃が激推しして、国王陛下が承認されましたの」
待て待て!
ロベニア国内において、その2人は重鎮の中の重鎮だぞ!
一体何を激推ししているんだ?!
少なくともいかがわしい響きの魔法具店に重きを置いた推しじゃないよな?!
通販システムが何かはしらないが、恐らく魔法具店よりマシだと思われる方を、9割推した末での評価だよな?!
「というわけなので、この度、ラビアンジェ=ロブールは、エイナ子爵を賜りましたわ。
家紋は【影和】でしてよ」
再び慣れた手つきで、紙に書くラビアンジェ。
そうして再び、先程の眼差しを向けた。
「去年度ギリギリもギリギリ。
最終日に滑り込み申請し、その場で卒業試験も受けましたの。
そうして先程、爵位の授与がお城から、申請が受理されたとの連絡を学園から、それぞれ受けましたわ」
ラビアンジェはそう言って、2通の封筒を懐から差し出す。
既に封が切られていた各封筒から、紙を取り出し、確認した。
確かにラビアンジェの言った通りの旨が、それぞれの紙に記載されている。
「だから出奔と口にしたのか。
しかし認められたばかりの子爵より、ロブール公女の方が身分は上。
そもそもが貴族社会からのフェードアウトでもないし、それならば我が家名を捨てるのは、些か早計ではないか?」
そう、貴族が爵位を2つ以上持った前例は、それなりにある。
だから……。
「ロブール公爵家の次期当主の座も、誰が実際に継ぐかなど決まっ……」
「お兄様」
決まっていない。
そう言いかけた俺の口元に、ラビアンジェはそっと右手の指の腹を押し当てた。
暫しの沈黙が、俺達兄妹の間に流れた後、ラビアンジェは苦笑して、口元の細指を離した。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
夜にナニを鳴らす魔法具のお店かは、読者様のご想像にお任せという事で( ´∀`)
余談ですがエイナ子爵を【アールエイティーン子爵】にしようとして自制した作者は、エライと思ってます(・∀・)