「お兄様。
私はロブール公爵家に未練は、1つとしてありませんのよ。
ただ長年気がかりだったのは、お兄様とシエナでしたわ」
ラビアンジェは苦笑しながら続ける。
「けれど既に、お兄様がロブール公爵となると確定しております。
そしてシエナはもう、ロブール公爵家とは無縁の存在」
「俺が……不甲斐なかったから」
思わず【俺】と、素の言い方をしてしまう。
それくらい、動揺している。
そもそも去年の春頃まで、俺達兄妹の関係は冷え切っていた。
俺は義妹だったシエナの嘘を信じ、実妹であるはずのラビアンジェにつらく当たってきた。
俺がシエナの嘘を信じたのも、シエナの嘘が自分にとって都合が良かったからだと、今ならわかる。
何より当主教育が始まった頃を境に、俺にとってロブール公爵家次期当主である責任を重く感じていた。
最終学年となった去年の春頃。
その頃をピークに、ずっと負担に感じていたのだ。
対してラビアンジェは、公女としてのしがらみをとことん無視し、好きに生きているように見えた。
それが羨ましくもあり、妬ましくもあった。
同じ直系の公子公女なのに。
心のどこかで、そう思いつづけてしまっていた。
だからシエナがラビアンジェを敵視していた気持ちも、わからなくはない。
きっとラビアンジェの中に、自分にない強さを感じ、輝いて見えたんだ。
シエナも、あの頃の俺も、それを認めるだけの強さがなかった。
本当に……不甲斐ない。
「あらあら、何を仰るのだか?
お兄様が不甲斐ないなら、ロブール公爵家はとっくに破綻していましてよ?
何より私は、しっかりと責任を全うすべく研鑽されるお兄様を見てきましたわ。
そんなお兄様だからこそ魔法師としても秀でていて、それらが相まって私は死なずに済んだんですのよ」
きょとりとした顔をするラビアンジェからは、嫌みさも忖度も感じない。
心からそう思っているのだと伝わってくる。
「それにフェードアウトするのは、間違いありませんわ。
領地を持つわけでもなく、社交の場に出るわけでもない。
そもそもエイナ子爵は突然、振って湧いた、表向きは大した知名度と実体のない爵位だと思う貴族が大半となるはず」
「それはないだろう。
お前は学園始まって以来、初めての飛び級での最短卒業者となる。
必ず注目される」
「ふふふ、そこはロブール公爵家が何かしら便宜を図ったとでも、噂が立つでしょうね。
何せ私は、無才無能なD組。
誰がまともに飛び級で、早期卒業を決める要項を満たしたとお思いになりまして?」
「それは……しかし事実を公表すれば……」
「必要ありませんわ。
そもそも無才無能な公女だから、好きに楽しくできてましたのよ。
なのに貴族のしがらみなど、面倒なだけ。
そしてお兄様?
私が、つまりロブール公女が、エイナ子爵だと広く知られてしまえば、お客様の買い控えが出かねませんわ。
夜鳴る魔法具店は、アダル、んんっ、大人特化型のお店でしてよ。
なのでエイナ子爵のファーストネームは、今後も秘匿しますわ。
何よりも、例えば私がロブール公爵家の当主になったとして、ロブール公爵家が手がける事業を、私が楽しめまして?」
「……いや、それは……」
主に破廉恥小説や、いかがわしい系小説にこそ、嬉々として取り組む性癖、んんっ、性格の持ち主。
嫌な事からは、基本的に逃走する逃走猛者。
それこそが俺の妹、ラビアンジェだ。
「むしろ面倒だからと、廃業してしまいかねませんわ」
「まあ……確かに……」
「ああ、でも……ロブール公爵家が雇う従業員を、夜鳴る魔法具店へ転職……」
「いや、私が悪かった。
それは止めてくれ」
未だに夜鳴る魔法具店が何を販売するか、掴みきれていない。
だがここらで引かねば、従業員共々、何かに負ける。
何にかはわからないが、俺も従業員達も、もれなく何かに負ける。
「ふふふ、そうでしょう」
くすくすと笑うラビアンジェは、きっと本心からそう思っているのだろう。
「それに出奔もある意味、必要ですのよ」
「どういう事だ?」
「S級冒険者にスカウトされてますの」
「はあ?!
ど、どういう事だ?!」
最後の最後……多分、最後と思しき、いや、思いたい爆弾発言に、やはり俺は取り乱してしまう。
頼む、今日はもう、コレで勘弁してくれ……あり得ない情報が多すぎる。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
イブですが、メリークリスマス!
皆様にちょびっとでも笑いを届けられれば幸いです(*´▽`*)