「そうだな。
それに俺達は下級生の訓練に付き合ってやっているんだ。
無才無能な公女のくせにつまらない見栄やプライドで目立とうとされるのも迷惑だ。
こちらはわざと討伐させてやっている事を忘れるな。
活躍しているなどと勘違いをされても困る。
わかったか、義妹虐めが趣味のロブール公女」
あらあら?
家格君に義妹虐めを趣味にさせられたわ。
義妹って私の従妹で義妹のシエナの事よね?
そもそもその気になれば瞬殺できるようなシエナ相手に弱い者虐めを楽しむほど悪趣味でも暇でもないのだけれど、何の事?
なんて思いはするけれど、いい加減手を動かす事にしましょうか。
ペグの1つを胡座をかいた膝の上に置いて工具セットの入った箱から針を2本取り出す。
ペグの本体は前後で構成してあるから、まずは前後を止める爪部分に隙間から1本差し込み、反対側も1本差し込む。
そのまま2つを押し込みながらテコの原理で上に力を加えればパカリと2つに分離するわ。
中に組み込んだ魔導回路に微量の魔力を注ぎ、確認してみる。
やっぱり一部がショートしているわね。
「おい」
家格君が何か言っているけれど、今は無視ね。
そもそもシエナに限らず、家格君も金髪組の2人も含めて弱い者虐めは趣味ではないもの。
「もしかして、魔力が低すぎてマイティの精神感応が効きすぎたんじゃないか?」
「やだ、仮にも四公の公女なのに」
金髪組の2人がニヤニヤ、クスクス笑っているけれど、何か面白い事でもあったのかしら?
「はっ、情けない」
家格君も鼻で笑っているわ。
ふふふ、楽しいのは良い事ね。
若者達は遊んでいてちょうだいな。
お婆ちゃんはメンテナンスに集中よ。
魔導回路はあちらの世界の電気回路に似ているの。
前世の50代の時に趣味で電気工事士の資格を取っていた経験が役に立ったわ。
夫と自宅DIYにハマった時にコンセントを増設したくなった自分を褒めてあげたい。
もちろん夫も資格を取ったのよ。
夫婦で手分けして増設したのが懐かしいわ。
といっても、魔導回路はこちら側の魔法の原理との組み合わせが必要だから、こちらの世界特有の回路なのは間違いないのだけれどね。
魔法陣ともどこか似ているのよ。
工具箱から削り器を取り出す。
これで回路のショートした部分を削るの。
見た目はそうね、あちらの世界の手の平サイズの電動消しゴムかしら。
消しゴム部分は小さな屑魔石を使用しているのだけれど。
乾電池式や充電式じゃなくてかなり微量の魔力を込めて動かすのよ。
魔力を注いで起動させればウィーンと小さな音がするの。
力加減を間違うと回路を駄目にするから、慎重に削るわ。
「聞いているのか、公女。
おい」
「あらあら、聞いていなかったわ。
ふふふ、こちらに集中しているの。
お相手できずに、ごめんなさいね。
あなた達はあなた達で楽しんでいてちょうだい」
なんて断りを入れつつ、家格君の苛々した声も聞き流しつつ、少しずつ削る。
「何だと?!」
「どういうことかしら。
私の魔法にかかっていないの?」
家格君は私の反応がそんなに気になるのかしら?
金髪ちゃんは何を驚いているの?
あなたの雑な魔法では当然の結果なのだけれど?
というか金髪君?
もしかしなくても、あなたこういうの好きね?
他の2人は私の顔を見ているけれど、金髪君は金髪ちゃんの背後から興味津々で私の手元に視線が釘付けね。
何なら今からでも魔法具について学んでみてはいかが?
でも3人共他にもっとやる事があるようにも思うわ?
一応、合同の討伐訓練よね?
「何だと!
この悪女が!」
家格君が吠える。
「いい加減にしないか!」
と思ったら、彼らの背後からの凛々しく麗しいお声……ああ、早く帰ってこの滾々と滾る妄想を形にしたい!
もちろん声の主はお孫ちゃんよ。
「マイティ!
今すぐ感応魔法を解除しろ!」
「は、はい!」
猛々しい足音と共にまずは振り向いた金髪君を押し退け、金髪ちゃんの前に進んで一喝。
あらあら、お孫ちゃんたら。
そんなに苛々してどうしたのかしら?
彼らの背中越しからチラチラと垣間見える4年生達の横顔が蒼白よ?
家格君も然りね。