「公女が給仕のような真似など……」
「あらあら、給仕ではなくてよ、マイティカーナ嬢」
「ですが……」
「手料理は振る舞うものではなくて?
それに今は討伐訓練中ですもの。
私の役割りは美味しい料理をグループに提供する食事担当なの」
金髪ちゃんてば座って料理を食べるわけでもなく、それとなく私の後についてくるのはどうしてかしらね?
彼女は治癒と後方支援担当だけれど、後追い担当ではなかったはずよ?
向こうからは男女の声が入り乱れてこだまし始めたのだけれど、私にかまけていていいの?
でも金髪ちゃんの言葉はことごとく遮るわ。
バキューム食べするうちの子達に早く料理を持って行きたいのだもの。
6枚の葉っぱ皿に串焼きと炭火焼きのお肉を盛るわ。
腹ペコ女子にはこんもりと、腹ペコ男子達には山盛りよ。
「多くありませんこと……」
「いつも通りでしてよ」
「え……」
どうしてそんなに驚いたお顔をするの?
もちろん男性陣には婆印象を良くする為もあって山盛りよ。
けれど、カルティカちゃんは先に食べていたからこんもりで大丈夫なの。
もしかしてその違いが気になったのかしら?
金髪ちゃんてば、細かいのね。
まあいいわ。
あちらの世界ではファミレスでバイトをした事もあるから、ウェイトレス風に手と腕に6葉っぱ皿乗せるわ。
運ぶのが1度で済んでいいでしょう?
うちの子達も無言で受け取ってくれるわ。
「そんな持ち方……しかも手慣れ感……」
ふふふ、バイトは何年かやってたから、これくらいはどうって事ないのよ。
でも貴族のお屋敷ではカートを使う事が多いものね。
育ちの良い金髪ちゃんには見慣れない光景かもしれないわ。
それにしても、あらあら?
この子達のお椀が天つゆだけね?
それなりにお肉も浸していたのだけれど、どんなバキューム食べをしたのかしら?
でも向こうの網に残った最後の1枚だけは私が食べちゃう。
楽しみにしていたのだもの。
調理者の特権よ。
念の為いくらか量の減った殻の上に、上級生達用にフォークと取り皿用の葉っぱ皿、お椀と水筒をセッティングしておきましょうか。
「あとはそちらで好きに食べてちょうだいね」
そう言って自分の葉っぱ皿に食べ切れるだけのお肉を乗せて、お椀には網に乗った最後のお肉を入れるわ。
まだ迷う金髪ちゃんは所在なく視線を彷徨わせているけれど、いつまでも構うほど暇でもないの。
未だに続く怒声が気になるなら、あちらに行ってもいいと思うわよ?
火の近くに座ってムシャムシャと美味しく食べてくれる若者達をニコニコ眺めつつ、しばしの食事を楽しむわ。
なんて作り甲斐のある若者達なのかしら。
あちらの世界の私の孫やひ孫達もよく家に来ては、色々食べてくれたあの日々がとっても懐かしいわ。
「おい!
何故俺達を差し置いて先に食事をしている!!」
「公子、やめないか!」
「お2人共落ち着いて下さい!」
まあまあ、相変わらず元気な坊や達の登場ね。
あらあら?
うっかり婆モードで家格君を坊や呼ばわりしてしまったわ。
心の中だけに留めておくなんて、でかしたわ、私。
それにしてもちょうど私の食べ終わったタイミングで登場するなんて、気が利く子達ね。
金髪ちゃんも自分のグループに混ざれて何よりよ。
何だか不安そうなお顔を家格君とお孫ちゃん向けるのは何故かしら?
食べている間も男女の声が向こうから響いていたから、反抗期同士で口撃し合っていたんでしょうね。
これも青春で良いと思うわ。
金髪君の仲裁力では2人の口撃を無効化するのも、止めるのも出来なかったのも微笑ましくてよ。
「まあまあ、やっとお越しになったのね。
さあさあ、皆様早くお座りになって」
「いや、話を……」
「嫌でしてよ。
ほらほら、早くなさって」
「お、おい……」
1番うっとおし、コホン。
反抗期が過ぎる家格君の腕を引き、背中に回ってグイグイ押して火の近くに座らせるわ。
リーダーが座ったからか、うちの子達が横にずれて促したからか、他の上級生達も素直にグループで固まって座ってくれたわ。
高位貴族の令息令嬢って、意外とこういう世話焼きお婆さんモードに弱いのよね。
まだうちの子達は食事中だから、もちろん彼らの対応は私がするわ。
食事担当は私だから、うちの子達も視線だけを投げかけつつモグモグ継続よ。