「まあまあ、美味しかったならそう言ってくれてよろしくてよ?」
「ふん、思ったより悪くは無かったというだけだ」
空の葉っぱ皿に、家格君がすっと差し出したお椀の出汁も無くなっているのだもの。
言葉は反抗期だし、目が合うと赤面してそっぽを向かれたけれど、食欲は正直になれたみたいで良かったわ。
もちろん差し出したお椀は魔法で洗浄してお茶を注いで差し上げる。
「美味しかったよ、公女。
討伐訓練でこんなに美味しい料理がいただけるとは思っていなかった。
ありがとう」
ああ、うちのお孫ちゃんのなんと素直で可愛らしいこと!!
柔らかくなった表情からの、はにかみ屋さん!!
たまらん!!
はっ、ダメよ私。
平常心、平常心よ。
「「ありがとうございます、公女」」
金髪組も随分素直ね。
お茶を淹れるのに自然と集まってくれた、家格君を除くこの3人はお椀を自分達で綺麗にしてくれたわ。
気が利く若者はお婆ちゃん、好きよ。
「初めて飲んだけど、このお茶は口の中をすっきりさせるね。
それに後味が少し甘い」
ふふふ、お孫ちゃんの綻んだお顔が見られて嬉しいわ。
あっという間に空になったから、気に入ってもらえたのね。
「ええ。
隠し味に乾燥させると甘くなる葉を乾燥させてブレンドしたのよ」
「もしかして公女が自分で?
とても品がある味わいだ。
その、もう1杯いただけるかな?」
「ブレンドしたのは私だけれど、市販の物なんかを混ぜているだけですわ。
もちろんよろしくてよ」
喜んで空のお椀に注ぐわ。
市販のお安い紅茶に、私が山で採取した野草を混ぜてかさ増しした超格安茶葉なのは黙っておきましょう。
「ありがとう。
公女は食の知識が随分豊富なんだな」
「美味しい物は美味しくいただきたいもの」
「はっ、公女としては必要ない知識だがな」
家格君てば孫と祖母の交流を邪魔するなんて、無粋な子ね。
でもそろそろ本題に入りそうね?
チラリとラルフ君を見れば、軽く頷いたわ。
「左様ですわね」
「あ、待て、公女はこちらに……」
「私のお椀はあちらにありますもの」
何を慌てているのかしら?
食後のお茶も淹れたし、そもそも家格君の近くでやる事なんて何もないのだけれど?
淑女スマイルを家格君に向けて彼の言葉を遮ったら、その場をさっと離れるわ。
振り返るといつの間にかうちの子達はリーダーのラルフ君の方に固まって座っていたのね。
もちろん自分のグループの近くに腰を下ろすわ。
「これ、公女のです」
ローレン君がこれまたいつの間にか持って来てくれていた私の洗浄済みのお椀を渡してくれる。
どこぞの家格君とちがって気が利く男子にお婆ちゃんは胸がキュンキュンよ。
女子ってこういうさりげない優しさに弱いのだから、家格君も見習って素敵スペックを上げてもらいたいわね。
「ありがとう」
「い、いえ」
普通に微笑めば、照れてうつむかれてしまったわ。
何だか可愛いわね。
お茶を最後まで注ぎ入れて、お茶パックは火に投げ入れる。
生薬も入れていたから、ほんの気持ちの虫除け効果を狙ったのよ。
もちろん魔獣の蟲には効かないけれどね。
「ふう」
お茶を一口飲めば、小さく息を吐いてしまったわ。
焚き火を見つめながら皆でゆったりとした時間を共有するって素敵ね。
いつしか辺りも暗くなったし、学生キャンプらしい盛り上がりには欠けるけれど、皆で静かさを堪能するのも悪くないわね。
「明日、俺達は移動する。
そちらはどうする?」
あらあら、ラルフ君がいきなりの本題を投げたわ。
残念だけど、静けさの堪能は終了ね。
「は?
何を勝手に判断している。
ここで救助を待て」
家格君は怪訝なお顔で決定事項とばかりに当然のように告げるわ。
お孫ちゃんは顔を曇らせるし、金髪組はおろおろ視線を2人のリーダーに行ったり来たり。
「いつまででも来るかどうかわからない救助を待って一所にいても、いつかは蟲達の餌になるだけだ」
「馬鹿か。
お前達のような下級貴族や平民と一緒にするな。
俺達は上位貴族だ。
特にニルティ家の公子である俺と、ついでにロブール家の公女もいる。
すぐに救助が来るに決まっている」
あらあら、一応第2王子の婚約者でもあるのだけれど、ついで扱いね。