「アルフェとホムが部屋を交換するんだね! ファラも承諾してるなら、いいに決まってるよ!」
翌朝、ウルおばさんに相談すると、笑顔で快諾してくれた。
「あたしとしては、いつ来るんだろうって指折り数えてたんだよ。それがもう二か月じゃないか! あんたたち、よく頑張ったね」
どうやら三人部屋の抽選に漏れたことで、かなりがっかりしていたアルフェのことが気懸かりだったらしい。ウルおばさんは、大きな毛むくじゃらの身体を揺らしながら本当に嬉しそうに僕とホムに許可を出してくれた。
「お気遣いありがとうございます。それで、その――」
「ああ、申請とかそういうのはいらないよ。みんなあたしの可愛い子どもたちだし、信頼してるからね」
「ありがとうございます」
なにか手続きが必要かと早めに部屋を出たのだが、どうやらその必要はないらしい。部屋を交換したり行き来すること自体は禁じられているわけではなく、良くあることではあるようだ。
それならば、定期的に部屋を交換するのも良いだろうな。幸いこの学園の警備はしっかりしているし、ホムも僕の身の危険を感じてはいなさそうだ。
「アルフェにはもう話したのかい?」
「いえ、これからなんですが――」
「きっと泣いて喜ぶだろうね」
感受性がとても豊かなアルフェのことだ、それくらい喜んでくれれば僕も嬉しい。アルフェの涙を見るのは避けたいけれど、嬉しくて泣いている姿を見るのは嫌いじゃない。
「リーフ!」
ウルおばさんと立ち話をしていると、アルフェが大きく手を振りながらやってきた。
「おはようございます、ウルおばさん」
「おはよう、アルフェ。良い知らせがあるから、聞いておくれ」
「良い知らせって?」
ウルおばさんの発言にアルフェが不思議そうに目を瞬く。
「ほら、リーフ。話しておあげ」
ウルおばさんが目配せしながら僕に促す。僕はアルフェを見上げ、
「今度の週末、久しぶりに一緒に過ごさないかい?」
「え?」
反射的に問い返したアルフェの目に輝きが宿る。アルフェの頬が嬉しそうに緩むのを感じながら、僕は続けた。
「今、ウルおばさんに許可をもらったんだ。明日の夜から、アルフェは僕の部屋に泊まれる」
「いいの!?」
そう言いながらもアルフェはもう僕の手を取って、強く握りしめている。
「ホムはアルフェ様のお部屋で過ごさせていただきます」
アルフェの一瞥を敏感に読み取ったホムが、柔らかな口調で補足した。アルフェはそれに二度瞬きし、改まったように僕の顔を覗き込んだ。
「……もしかしなくても、ワタシ、リーフと二人きり?」
「そうだよ」
「リーフ、大好き!」
応えるのと同時にアルフェに強く抱き締められる。触れ合う頬の熱さから、アルフェの頬が薔薇色に染まっているのが想像出来て、僕も頬が緩んだ。
「ホムちゃんも、ありがとう!」
アルフェが手探りでホムを抱き寄せながら、僕たちを抱き締めている。その様子を見守っていたファラがアルフェの背後で噴き出した。
「にゃはっ! 朝からアツイなぁ~」
「だって大好きなんだもん」
「知ってるよ。毎日リーフのことばっか話してるもんな」
「えへへっ」
アルフェが照れたように笑いながら僕たちからゆっくりと身体を離す。
「そういう訳だから、仲良くしようぜ、ホム」
「わたくしも楽しみにしております」
ファラがホムに握手を求め、ホムが微笑んで応じる。ファラの瞳に一瞬だけ魔眼の光が宿り、ホムの微かな表情の変化を読み取ったように見えた。
こういう細やかな制御が出来るファラは、かなり自分の魔眼の性質を知り尽くしているようだな。とはいえ、ホムの表情を読み取るのに魔眼を使うなんて、凄いことを思いつくものだ。
「……あれ? ファラちゃんは知ってたの?」
ホムとファラの交流を嬉しそうに眺めていたアルフェが、ふと思い出したように問いかける。
「昨日ホムから相談されてさ。まあ、あたしも同じ軍事科同士、ホムとはゆっくり話してみたかったんだよ。だから丁度いいかなって」
「そうだったんだ……。ありがとう、みんな」
どうやらアルフェにはサプライズになったようだ。全然気がつかなかったとばかりにアルフェが嬉しそうな照れ笑いを浮かべている。その笑顔を見ると、みんなが幸せな気持ちになるような、そんな笑顔だ。ウルおばさんも嬉しそうに僕たちを見守ってくれている。
「どういたしまして」
「寮の醍醐味みたいなもんだよな。これからもちょいちょいやろうぜ。良いだろ、ウルおばさん」
「もちろんだよ。相談さえしてくれれば、ダメとは言わないからね」
入学して二か月と少し、やっと寮の過ごし方もわかってきて快適になってきたな。これからもっとプライベートに使う時間も気にすることにしよう。きっと専攻ごとの科目に分かれてからは、かなり大変なことも多くなるはずだから。