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Alchemist Startover – Chapter 185

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工学科の選択授業は、自由課題を昨日のうちに申請しておいたので、機兵工房へ直行することにした。

そもそも魔導杖用のブラッドグレイルは、1.5メートルほどの大きさになる予定なので、大学部の機兵工房でなければ作業場が確保できないからだ。

割り当てられた作業場へ向かっていると、大学部の機兵が並ぶエリアにプロフェッサーの姿があった。もしかすると、大学部の武侠宴舞の機兵評定を行っているのかもしれないな。

「やあ、早いですね」

「あの、ブラッドグレイルを錬成するのに、製鉄用の溶鉱炉を借りても構いませんか?」

僕に気づいたプロフェッサーが気さくに声をかけてくれたので、単刀直入に設備使用のお願いをしてみる。

「構いませんが、全自動の錬成器ではいけませんか?」

ああ、そうだった。現代では、ブラッドグレイルの錬成は全自動の錬成器を用いるのが主流になっているらしいな。

前世の僕の死後、産業革命によって工業系の魔導器が発明され、日常生活は便利になったのだが、それを開発する錬金術の分野に深く浸透し始めているのにはどうにも慣れない。

「……メルアから最高品質の魔石を譲ってもらえたので、品質にも拘りたいんです」

「……ああ、なるほど」

それらしい理由を並べると、プロフェッサーは素直に納得してくれた。

「そういう理由でしたら、手動で錬成するのがいいでしょう。かなりの手間と時間はかかりますが」

「承知の上です」

別にその手間を苦とも思わないので、僕としては全く問題ない。大きく頷くと、プロフェッサーは、工房の一角にある溶鉱炉などの設備を手のひらで示した。

「では、あちらの溶鉱炉を使ってください。溶鉱炉に限らず、この工房にあるものはどれでも自由に使うことができます。目的外使用の場合は、今のように一言声をかけていただけると助かりますけれどね」

「留意します」

どうにか上手く誤魔化せて良かった。

それにしても、いくら人工魔石の錬成に手間がかかるとはいえ、全自動化してしまうのは錬金術師の堕落の象徴だな。魔導器で生活を便利にすることに関しては、僕も家族もその恩恵に預かってきているので素直に受け入れられたが、錬金術まで魔導器に頼るのは、どうにもいただけない。

自らの知識と技術の向上を常に探求し、高みを目指すことで真理に辿り着くのが錬金術であるのに、魔導器を用いて自動化してしまった時点で、改良の道を自ら閉ざしているようなものなのだから。

「ああ、そういえば――アイザックとロメオも来ていますよ。熱心ですね」

プロフェッサーがそう言いながら、作業場にいるアイザックとロメオをそれぞれ視線で示してくれた。ロメオはもう設計図から魔導杖の金型を出力しはじめているようだ。さすが魔導器メーカーの息子だけあって仕事が早いな。

アイザックも平行して魔導杖の素材であるエーテライトの錬成を進めている。手順の理解が早いので、逐一指示をしなくても勝手に動いてくれそうで助かる。

「……二人とも、なにかあったら声をかけてくれるかな?」

「もちろんでござるよ、リーフ殿!」

「今のところ順調だよ!」

さて、アイザックもロメオも見たところ問題なさそうだし、僕は杖に組み込むブラッドグレイルの錬成に注力するとしよう。

まずは、溶鉱炉を魔素液化触媒である錬金水で満たすところからだな。

これは、アルフェの角膜接触レンズを作る時にも用いたもので、魔素を溶かし込む性質を持つものだ。錬金水を使って、メルアから分けてもらった五属性の魔石を溶かすことで、火、水、雷、風、土の五大元素の力が合わさり、上位属性である光のエーテルに近づけることができる。この複合属性を持つ人工魔石が、ブラッドグレイルというわけだ。

溶鉱炉を錬金水で満たす作業は、専用のバルブが近くにあったのでさほど苦労せずに進めることができた。魔石に関しても、メルアが浮遊魔法の術式を刻んでくれたおかげで、容易に溶鉱炉に入れることが出来たので、ここまではかなり順調だ。

次の工程のために、溶鉱炉から錬成液を移す場所を確保しておかないといけないな。

ちょうど機兵装甲用の巨大な長方形の金型があるのには目をつけていたので、アーケシウスを操作して溶鉱炉の近くへ移動させる。

程なくして、錬金水に全ての魔石が溶けたことを確認出来たので、溶鉱炉のバルブを開いて金型へ錬成液を移した。浅い金型の中に注がれた錬成液が、工房内の僅かな振動を受けて細かに波打っている。

「さて……」

問題は、この後だな。

ブラッドグレイルはその名にもあるように、材料のひとつに血液を要する。

元々は、ブラッドグレイルを発明したアルビオン・パラケルススが己自身の血液を用いて最初の錬成陣をつくったことに由来しているのだが、その後の研究で魔墨ではブラッドグレイルの錬成は不可能であると結論づけられているのだ。

アルビオンによる説は不明だが、血液内に存在するエーテルがブラッドグレイルの錬成に必要であるいう説が今でも有力だ。

通常は動物や魔獣の血を用いて錬成陣を描くが、今回は僕の血を使って描くことにした。

一般に血液内に存在するエーテルは微量だが、エーテル過剰生成症候群である僕の血には、かなりのエーテル量が存在しているはずだ。それがブラッドグレイルにどのような効果を及ぼすのか、単純に興味があった。

とはいえ、50mlほどは必要になるので、あらかじめ瓶にいれておいた血液をそっと取り出す。アルフェやメルアが見れば、そこに漂うエーテルから僕の血液だとすぐにわかるが、アイザックとロメオ、プロフェッサーには早々見破られないだろう。そうでなくても、成長しない身体、というだけでもかなり目立つのに、怪我を負ってもすぐに回復してしまうという第二の特徴はなるべく隠しておきたいところだ。

「……それにしても、随分緻密な簡易術式を記してくれたものだ……」

今回は素直にアルビオンのオリジナルの簡易術式を使用する。幸い前世の僕が真なる叡智の書に描き写していたものがあるので、これを見ながら描けば正確に模写することが可能だ。

再びアーケシウスを操作し、金型の上に大きな木の板を渡して全ての魔石を溶かし終えた錬成液の上に立つ。神秘的とも言える紫色の液体を見下ろした僕は、血液の入った瓶の中に、錬成筆の筆先を浸した。

この錬成筆でというのは、本来文字が書けない場所に文字を書くために作られた錬金術用の筆だ。書いた文字や模様などをその場に固定することができるため、これを使うことで錬成液の上に簡易術式を描くことが出来るのだ。

前世の僕の頃にさんざん使ったきりだが、描き出しは順調だ。身体は違っても、前世の感覚が魂にそのまま刻まれているのがわかって、少し面白いな。

簡易術式を組み合わせて、ブラッドグレイルの錬成陣を描き進めるにつれ、書字に使っている僕の血の色が変わって、金色に輝きはじめた。

「なるほどな。思った通りだ」

ブラッドグレイルは、エーテルを光属性に近づけることでエーテルの出力を伸ばす特性を持つ。だとすれば、エーテル量のみならず、僕の血液の性質が関係しそうだな。僕の血液は、女神の光のエーテルそのものを内包しているわけだから、より性能の高いブラッドグレイルが錬成できるという仮説はどうも正しかったようだ。

アルビオンの残した術式は非常に長く、かなり緻密に描かれているので模写には時間がかかるが、こうして反応を目で確かめながら描けるとなると、想像以上に作業が捗るな。未だ解明されていないアルビオンが術式に込めた意味をひとつひとつ検証するとすれば、こうした手順を踏むのが近道かもしれない。

金型に渡した木の板を少しずつずらしながら、錬成液の上に錬成陣を完成させた頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。だが、作業はかなり順調だ。

「術式起動」

作業用の板を取り払い、錬成陣の上に手を翳してエーテル流す。すると、僕のエーテルに反応した錬成液が宙に浮かび上がり、球体への変化を始めた。

液体は見る間に凝固して紫色の丸い宝石として完成する。内部には、錬成術式を固定させたことにより、僕の血液が斑の模様となって定着していた。


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Alchemist Startover

Alchemist Startover

Alchemist Startover ~The unloved alchemist that died alone was reborn as a little girl~, アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~
Score 7
Status: Ongoing Type: Author: , Released: 2021 Native Language: Japanese
Once an orphan turned street child, and later almost killed by a foster father, the genius alchemist Glass Dimelia had walked a life of misfortune. Ravaged by illness at a young age, Glass devoted himself to his final research in a desperate bid to defy death, only to be sentenced to execution by a Kamut, the agent of the goddess, for touching the forbidden. Unable to resist, Glass was condemned, but was praised by the goddess Aurora for his achievements in alchemy during his lifetime and given the opportunity to “reincarnate.” Although he was supposed to be reborn as a new life with all memories erased, due to the unilateral decision of another goddess, Fortuna, he was allowed to reincarnate while retaining his memories. Glass reincarnated three hundred years after his death. Born as a baby girl, Glass was named Leafa by her parents and embarked on a new life. This is the story of a lonely alchemist who didn’t know what happiness was, coming to know love, and seizing happiness with her own hands.

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