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Alchemist Startover – Chapter 377

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イグニスを探しに地下通路へ入ると、血の臭いが鼻をついた。

水音が静かに響く地下通路には、レッサーデーモンや翼持つ異形などの魔族の気配は感じられない。不気味なほど静かだった。

水の滴る音がして、弾かれたように首を巡らせ、手のひらに炎魔法を宿した。地下水路の水面を照らし、そこにスライムの姿がないか凝視したが、これといって異変は感じられなかった。

どこからか吹いてきた冷たい風が、地下通路を抜けて行く。こことは違うどこかの扉が開け放たれたままなのかもしれない。

「……イグニス。そこにいるの?」

呼びかけに誰かが動く微かな気配が感じられた。

「イグニス?」

なるべくゆっくりと彼を気遣うようにもう一度呼びかける。私の声が届いたのか、何かを引き摺るような音に続いて、返答があった。

「……その声は……エス……っ」

咳き込んで言葉は途切れたが、イグニスの声だった。また風が抜け、血の臭いを運んでくる。不思議なことに、今度は生温い風だ。髪の毛が焦げたような嫌な臭いがして、思わず顔を顰めた。

「……怪我をしているの?」

「ああ、……手酷くやられた……」

聞いたことのない弱々しい声だ。魔族にやられたようだが、口振りからして、今はその脅威が去っているように思われる。手のひらに宿した炎を消し、魔石灯の明かりを頼りに声のした方へと進む。イグニスもこちらに向かっているらしく、何かを引き摺るような音と共に気配が近づいてくるのがわかった。

「イグニス、あなた……」

イグニスの影が地下通路の魔石灯の明かりの範囲に近づき、その姿が露わになり、思わず絶句してしまった。

イグニスの顔面の左側は酷く腫れ上がり、その両眼は真っ赤に充血している。左半身の服は焼け落ち、火傷を負ったかのように爛れ、ぐずぐずと血が滲んでいる。焼け残った服は肌に直接貼り付いており、血塗れの襤褸を纏ったような姿がなんとも痛々しい。

「俺様としたことが、たかが下等生物相手にこのザマだ。笑いたければ笑え……」

絶句したままの私に向かって、イグニスがぎこちなく口を動かし、歪んだ笑みを浮かべる。

「……とにかく手当を。学校の医務室に向かいましょう」

「医務室だと……? 笑わせるな……、っ、ぐ……」

イグニスはそこで苦しげに呻き、その場に蹲った。この状態で放っておくことは出来ない。事態は一刻を争うのだ。

私は咄嗟にイグニスに駆け寄り、彼が掴まりやすいように半身を傾けて肩を差し出した。

「諦めないで。必ず助かるわ。さあ、私に掴まって――」

その瞬間、視界に炎がちらついた。それを把握した私を、イグニスの掌底が容赦なく打ち、意識が一瞬飛んだ。

自分が地下通路の石畳の床に叩き付けられる衝撃で、どうにか意識を持ち直したが、身体がいうことを利かない。起き上がろうにも、すぐには立ち上がることが出来ないことははっきりとわかった。

「ほう? 衰弱の邪法を込めたんだが、まだ意識があるとはな」

赤く充血した目で私を見下ろしているイグニスは、先ほどまでの弱々しい態度から打って変わって、邪悪な笑みを浮かべている。その身体を蝕んでいる酷い怪我も、痛々しいという印象から打って変わって、ある種の禍々しさが漂っている。

「う……」

どういうことかイグニスに訊ねたかったが、口から漏れたのは鉄錆の味がする呻きだけだった。意識が朦朧としていて、気を失わないでいられるのが不思議なぐらいだ。

イグニスは私の傍らに屈むと、無造作に私の髪を掴んで、無理矢理に引き摺り起こした。

「アークドラゴンとの戦いで消耗したか? それともデモンズアイを退けたことで、また平和ボケに戻ったか? いい面だぜ、エステア」

「……な、にを……」

やっとそれだけを紡いだが、頭がぐらぐらする。イグニスが何を言っているかわからない。

でも危険だ、危険だとわかっているのに、どうすることもできない。

「医務室なんざクソ食らえだ。お前という上等な生け贄がわざわざ飛び込んで来たのだからな」

生け贄とは、なんのことなのだろう。イグニスはなんの話をしているのだろう。拙いことに意識が遠のき始めている。髪を引っ張られている感覚も、最早失われて、世界が黒い膜に覆われたように霞んでいる。

「光栄に思え。お前の命は、俺様が生還するために有益に使ってやる」

薄れゆく意識の中で、辛うじて聞き取れたのはイグニスの勝ち誇ったような声だった。


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Alchemist Startover

Alchemist Startover

Alchemist Startover ~The unloved alchemist that died alone was reborn as a little girl~, アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~
Score 7
Status: Ongoing Type: Author: , Released: 2021 Native Language: Japanese
Once an orphan turned street child, and later almost killed by a foster father, the genius alchemist Glass Dimelia had walked a life of misfortune. Ravaged by illness at a young age, Glass devoted himself to his final research in a desperate bid to defy death, only to be sentenced to execution by a Kamut, the agent of the goddess, for touching the forbidden. Unable to resist, Glass was condemned, but was praised by the goddess Aurora for his achievements in alchemy during his lifetime and given the opportunity to “reincarnate.” Although he was supposed to be reborn as a new life with all memories erased, due to the unilateral decision of another goddess, Fortuna, he was allowed to reincarnate while retaining his memories. Glass reincarnated three hundred years after his death. Born as a baby girl, Glass was named Leafa by her parents and embarked on a new life. This is the story of a lonely alchemist who didn’t know what happiness was, coming to know love, and seizing happiness with her own hands.

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