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Alchemist Startover – Chapter 383

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少し進んだところで壁の色が変わり、開けた通路に出た。

先ほどまではカイタバ粘土で舗装された比較的新しい壁だったが、この空間は土が剥き出しになっている。

「なんか雰囲気が変わったな。妙に古いんだが、手抜き工事かなんかか?」

ヴァナベルが匂いを嗅いでいる音がするが、この空間自体はかなり古いものなので、所謂土の匂いは殆ど感じられない。

「そうじゃないよ。この部分は、人魔大戦の頃に造られた『地下防空壕』なんだ。当時の用途は、魔族の空襲から逃れるための臨時地下居住空間といったところだね。通路がそのまま避難所になるようになってる」

「言われてみれば、備蓄倉庫っぽい横穴があるね」

僕の説明にアルフェが通路の奥を炎魔法で照らす。ゆらゆらと影が揺れ、天井が低くいかにも倉庫らしい空間が見えた。

「戦後に下水施設として採用された関係で、当時の造りがそのまま残っている場所があるんですわ」

「マリー、この地下防空壕ってどの都市にもあるもの?」

軍部にいるマリーは、この空間についても熟知しているだろう。地図を個人で携帯しているということはさすがにないが、詳しいことはマリーに説明を任せた方が僕としても助かる。

「基本は帝都のような大都市にしか建設されていませんわ。そもそも人口が違いますし、建設に費用と労力が掛かりますもの」

「そうだね。実験的な試みなのか当時の領主に蓄えがあったのか、どちらなのかは分からないが、現状を見る限り、カナルフォードでは建設されていたようだね」

一応図書館にある古い歴史書を見れば分かる程度の知識を繋げたが、メルアが感嘆の溜息を吐く音が聞こえてきた。

「ししょーの知識の幅って、めっちゃ広いよね。錬金術やるなら、歴史も詳しくないとなのかなぁ~」

「リーフは大体のことが出来ちまうもんなぁ。って、ためになる話はいいんだけどさ、ちょっと相手の動向を探んのにノイズが少ない方が有り難いんだが」

「にゃはっ! 気になってつい聞いちゃうもんな」

前衛として警戒に当たっているヴァナベルとファラが、それとなく忠告する。

「この広い空間を歩く上で、留意すべきところだね」

他のみんなが声を潜めたので、僕のその声は妙に響いた。

「こうやって下水を増設したことで、この地下は街の全ての敷地をカバーしてるんだもんね」

「はい。魔族が隠れて拠点を作るにはうってつけの場所というわけです」

広い通路を見回すアルフェに、ホムが静かに応える。中衛であるホムは前方と後方の両方に気を配らなければならないため、普段よりもかなり慎重に周囲の音を拾ってくれている。

「まあ、見た目が古いってだけで地図の配置の通りだし、このまま進めばいいんだよな」

進む先に危険はないと判断したヴァナベルが、ファラと頷き合いながら声を上げる。

「このまま進もう。今はなにもないけれど、この先にエステアの手掛かりが見つかるかもしれない。アルフェとメルアは浄眼でサポートしてくれると嬉しい」

「もっちろん! さっきからバリバリアンテナ全開で視てるよ!」

「ワタシも!」

メルアとアルフェの頼もしい声がすぐに返り、僕は再びアーケシウスを歩ませ始めた。

今のところは幸いなことに魔物には出会っていないが、油断は禁物だ。

相手が狡猾な魔族であるからこそ、こうした気の緩みを誘う時ほど気をつけなければならない。

水の滴る音とアーケシウスの動力音、皆の足音だけが地下通路に木霊している。ヌメリンが、時折外に出られる赤い扉がある位置を確認してくれているが、正直なところそこから脱出出来るとは限らないのが現状だ。

魔族の襲撃を受けた地上は、かなりの打撃を受けている。どこでどのような被害があるのかわかっているのは、今のところ大闘技場と学校の周辺だけだ。

いざとなればアルフェとメルアの魔法、あるいはマリーの宵の明星で地上への風穴を開けることも出来るだろうけれど、エステアを救出出来ていない今は、それは最後の手段にしておきたい。

万が一地下通路の崩落が起これば、エステアを巻き込むことは勿論、救出がより困難になるからだ。

「……あ! ねえ、アルフェちゃん! あれってエステアのエーテルだよね」

「ほんのちょっとだけど感じる!」

後ろからメルアの声が飛び、アルフェがすぐに反応する。通路の端の暗がりに目星を付けたホムが走り、周囲をくまなく探した。

「ありました!」

ホムが魔石灯の下で掲げて見せたのは、グリーンのリボンだ。

「エステアのリボンですわぁ!」

「キラキラして見えるのって、エーテルもそうだけど、エステアの髪じゃない!?」

マリーの叫びに、メルアが悲痛な声を上げる。

「その通りです。何本か抜けたものが絡みついています。リボンも結び目が残ったまま……」

ホムが応えながら、メルアとマリーの方へと駆けていく。

「ひど……。乙女の髪をなんだと思ってんの……」

「最悪ですわね。イグニスならやりかねませんけど……」

リボンを受け取ったマリーとメルアはそう呟いて絶句している。髪を巻き込み、結び目を残したままのリボンは、解けたというよりは外れた、という表現が正しいのだろう。

「恐らく、髪を掴んで引っ張ったのだと思います。靴が擦れた跡が少しだけ残っていました」

ホムの言葉を集音器で聞きながら、その様子を頭の中に思い浮かべる。

エステアは間違いなく、ここにいる。今までエステアの痕跡を見つけられなかったのは、なんらかの隠蔽が図られたせいなのだろう。足許を照らして見れば、地下通路の床が湿って濡れているのがわかる。これでは、足跡は残らない。あるいは、湿っていること自体、スライムのような下等魔族を使って床を這い回らせた跡なのかもしれない。

「エステア先輩のリボンが見つかったのはいいんだけどさ、なんか行き止まりみたいだぞ?」

「一応なんかの門みたいだし、先には続いてるっぽいけどな」

先に前方を進んでいたヴァナベルとファラ、ヌメリンが立ち止まりこちらに声を掛けてくる。

「今行く」

アーケシウスを歩ませ、周囲を照らし出すと、通路の奥の方に木造の門があるのが見えた。

「壁に赤い宝石が埋まってる……。これってなんだろ~?」

地図と見比べながら問いかけるヌメリンが、不思議そうに首を傾げている。

「等間隔で埋め込まれているみたいだから、人工物だね」

「魔石灯の代わりにでもするつもりだったってことか?」

その割には随分と低い位置に並べられている。

「いや、何らかの意図はあったんだと思うよ。ただ、人魔大戦の頃からあるとすれば、300年は前のものだ。魔石は消耗品だし、その頃に稼働させていたとすると、もう機能していないだろうね。エーテルを供給すれば別だけど」

そうは言ったものの、どんな仕掛けがあるともわからないので、僕はアーケシウスを歩ませて間近で魔石が並べられた門を眺めた。

門自体はかなり古いもので、鋼鉄部分が腐食しているが、扉の一部が赤い髑髏の幕で覆われている。単に立入禁止としたいのならば、縄を張るか別のバリケードを設ければ良いはずだが、なぜこんな布を使っているのだろうか。

「……ファラ、その赤い幕、髑髏の他に何が描いてあるかわかるかい?」

「にゃはっ。悪趣味だよなぁ……。これ、なんかライルが見せてくれた大闘技場の魔法陣に似てる気がするぜ。一見真っ赤だけど、同じ色で色んな紋様が連なってる」

「マジか。オレには全然わかんねぇけど……」

ファラの魔眼でもなければ、見抜けなかっただろう。その証言だけで魔族の邪法であるという推測は充分に成り立った。

「多分、魔族の呪いだろうね。突破する者に何らかの呪いをかけるものだ。まあ、最悪のパターンとしては『死』の呪いだろう」

「血も涙もねぇって聞いてたけど、オレらの命なんてなんとも思ってねぇんだな」

ヴァナベルが忌々しげに呟き、赤い髑髏の幕から離れる。呪いと聞いて、ファラもヌメリンもアーケシウスの後ろに下がった。

「要するに、ここから先が本番ってことですわね」

後衛のマリーが、拡声魔法を通じて声を掛けてくる。

「そうだね。ここで僕たちを一網打尽にするのが目的なら、イグニスの目的地はこの先と見て間違いない」

「それこそ大闘技場に続く前の最後の大空間だもんねぇ~」

改めて地図に視線を落としながら、ヌメリンが周囲を見回す。

「どうしますか、マスター?」

「魔族の邪法を使った呪いであるなら、光魔法で浄化する他はないだろうね」

呪いは光魔法で浄化するしかない。それは確かなのだが、光魔法を使えるのは僕しかいない。

だが、僕がエーテルを使うことによって、今は機能を停止してる魔石は、外部からのエーテルを受け取り、再び動き出すのだ。

「……どうしたんだ、リーフ? 呪いを解くとなんかマズいのか?」

考え込んでしまった僕に、ヴァナベルが怪訝そうに問いかけてくる。

「いや、呪いを解かせること自体が目的なのかもしれないと思うと、もう少し調べておきたい」

応えながら、僕は門を眺め、そこに施された赤い炎魔石の配置を確認した。

扉を封鎖する際、人類がここに仕掛けをつくる理由はただひとつ、敵の接近を阻むためだ。敵の接近や進入を阻むだけならば、おそらく封印魔法を施すだけで足りる。

だが、これだけ目立つ広い空間に、わざわざ仕掛けを作っているのであれば、この場所を防衛のための最前線と位置づけている可能性が高い。

「……多分、防衛術式を施しているんだろうね。空間の広さから考えて、ゴーレムの召喚術式が仕込まれていると予測出来る……。わざわざ呪いをかけて、赤い髑髏の幕までかけているということは、エーテルで防衛術式を起動させ、邪法で操ることを想定しているのだろう。

「……ん~、やらしい罠だよねぇ。元々あった術式と邪法のコラボレーションっちゅーのはさ、どっちに転んでも干渉するしかないやつじゃん?」

僕の悩みに気づいたメルアが、悔しげな声を上げる。

「そうなんだ。効果がわからない以上、呪いを喰らうのは絶対に避けたい。だから、防衛術式が反応するのを承知で、光魔法を使うしかない」

「……やってください、マスター。早くエステアを追わなければ」

誰よりも早く決断を下したのはホムだった。エステアの髪が絡みついたリボンを目の当たりにしたこともあり、イグニスの焦りを敏感に嗅ぎ取っているのだろう。

「にゃはっ! やっぱそれしかないよな」

「罠だってわかってて進むしかないってのは癪だけどな」

ファラとヴァナベルがホムに続くと、他の皆も同意を示してくれた。

「後方支援は任せてくださいまし!」

「出てきたところで、めっちゃ昔の防衛術式だから、なんとかなるでしょ!」

マリーとメルアが力強く声を上げる。アルフェを振り返ると、彼女は微笑んで僕の背中を押してくれた。

――なにがあっても、ワタシがみんなを守るよ。だから、大丈夫。

声には出さなくても、アルフェの想いが伝わってくる。

エステアを助けるために、前に進まなければならない。罠に向き合う覚悟は出来た。僕の思考と連動し、真なる叡智の書の頁が自然に捲れていく。使うのは、光属性の付与魔法だ。

「光よ。浄化の力を与えよ――ブレッシング」

光魔法属性の聖なる光をアーケシウスのドリルに宿らせる。光属性を付与されたドリルは光を宿して煌めき、赤い髑髏の幕ごと扉を破った。呪いは浄化されたが、砕いて粉砕した扉にまとわりついた赤い幕から邪法の炎が上がる。邪法の炎に触発された魔石が、僕のエーテルを取り込んで光を放ち始めると、地鳴りが起こり、瓦礫と化した門扉から弾けるように魔石が飛び出した。

Alchemist Startover

Alchemist Startover

Alchemist Startover ~The unloved alchemist that died alone was reborn as a little girl~, アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~
Score 7
Status: Ongoing Type: Author: , Released: 2021 Native Language: Japanese
Once an orphan turned street child, and later almost killed by a foster father, the genius alchemist Glass Dimelia had walked a life of misfortune. Ravaged by illness at a young age, Glass devoted himself to his final research in a desperate bid to defy death, only to be sentenced to execution by a Kamut, the agent of the goddess, for touching the forbidden. Unable to resist, Glass was condemned, but was praised by the goddess Aurora for his achievements in alchemy during his lifetime and given the opportunity to “reincarnate.” Although he was supposed to be reborn as a new life with all memories erased, due to the unilateral decision of another goddess, Fortuna, he was allowed to reincarnate while retaining his memories. Glass reincarnated three hundred years after his death. Born as a baby girl, Glass was named Leafa by her parents and embarked on a new life. This is the story of a lonely alchemist who didn’t know what happiness was, coming to know love, and seizing happiness with her own hands.

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