「なんで変な異世界人ばかりに会うんだろ……」
「異世界人と出会う頻度が高い理由は分からないが…………あくまで推測だが、出会うのがおかしな異世界人ばかりなのについては思い当たる事がある」
「そうなの!?」
ソファの上で寛いでいたヴァネッサが、姿勢を正してこちらに顔を寄せる。
「合っているかどうか分からないが……」
「教えて?」
ヴァネッサの問いに応えるために頭の中で考えを整理しながら、収納鞄から冒険者ギルドで買ったノートを取り出す。
「メリシアの本屋に行った時、異世界人が書いた物と思われる本の題名と著者を纏めていた」
「そう言えば、あの時ノートに何か書き込んでたね」
「これを見て何か気づかないか?」
ノートを開いてヴァネッサに手渡す。しばらく開かれた頁に書かれた本の題名と著者の一覧とにらめっこをしたヴァネッサが、困った表情をしながらノートから顔を上げた。
「……デミトリは字が綺麗だね?」
「ありがとう、分からなかったんだな?」
「うん……」
「『蜘蛛男の冒険』の著者名は本名だと思うか?」
ヴァネッサが再びノートに視線を落とす。
「S・リー……これって前世の記憶を持ってる私達だから気づけるけど、多分ペンネームだよね?」
「ああ。二巻の内容からして本人が転生しているわけでもなさそうだ。異世界人の作者が、模倣した物語の著者の名前をそのまま借りているんだと思う」
「物語の内容だけじゃなくて著者の名前まで真似してペンネームにするのはどうかと思うけど……それがどうかしたの?」
「明らかに偽名……ペンネームだと分かる著者達、『蜘蛛男の冒険』以外だと『八つの習慣』を書いたS・コヴィーもそうだが彼等は何冊か本を出している。対照的に、恐らく本名だと思われる著者のほとんどが一冊しか本を出していなかった」
俺の考えている事が何となく伝わったのか、ヴァネッサの表情が険しくなっていく。
「最初はたまたま在庫が無いだけで、他にも同じ著者の本が出版されているかもしれないと思った。ヴァネッサが本を見ている間に店主に聞いてみたんだが……たまたま知らなかっただけかもしれないが、明らかに続巻が出ていそうな本も出版された記憶がないと言っていた」
「もしかして……」
「アルフォンソ殿下は異世界からの転生者や転移者について、貴族達は義務教育を受けると説明していた。それだけ異世界人についてヴィーダで広く認知されているんだ。本名で革新的な異世界の知識や技術について本を出してしまったら――」
三度ノートの一覧に視線を落として、著者名を見ながらヴァネッサが呟く。
「欲深い貴族に囲われたり、権力者に利用されたり、犯罪に巻き込まれる可能性だってあるよね……」
「そう言う事だ。偽名で本を出版した異世界人達が、そこまで見越してそうしたのかどうかは分からないが」
――他人の知識や物語を我が物顔で本にしてしまう位だ、自己顕示欲から本名で本を出しそうなものだが……
「異世界の知識で無双するとか、成り上がるって前世の小説だと定番だったけど……」
「……現実はそこまで甘くないのかもしれないな。今まで独占されていた技術や知識を上回る情報が書かれた本を、急に異世界人が公開してしまったら確実に色々な利権絡みの問題が発生するだろう。しっかりとした後ろ盾の無い状態でそんな事をしたら、その道の者達に釘を刺されてもおかしくない」
――本を一冊出して満足して、それ以降本を出していないだけかもしれないが……ヴァネッサの言っていた様に誰かに利用されたり、最悪邪魔だと判断されて始末された可能性すらある……
「ヴァネッサの質問に戻るが、本来異世界人だと気づかれる事自体避けるべきなんだ。前世でも出る杭は打たれると言われていただろう? 敢えて自分が異世界人だと分かるような振舞いをしている人間がおかしいだけで、恐らく気づかれない様に過ごしている普通の異世界人も居るんだと思う」
「私達みたいに隠してるってこと?」
「ああ、ばれても利点が無いからな……それこそ俺達が気づいていないだけで、既に異世界人と出会っている可能性すらある」