おかしな異世界人としか出会わない原因について、多分に憶測を含むがこの考えは答えからそう遠くないと思っている。
「……異世界人だって分かるような振る舞いを気づかずにしちゃったり、百歩譲って自分が特別だって勘違いして行動しちゃうのは分かるよ? でも……殿下の婚約者だけじゃなくてセイジの時も違和感を感じたんだけど、独り言が激しい異世界人が多すぎない?」
「それについては俺も疑問に思っている。まるでこちらには聞こえていない様に会話を続けるのは明らかに不自然だ……本当に気づかれていないと思っているんだろうか?」
――それとも気づかれても問題ないと思っているのか……?
「……私は変な独り言とか言ってない?」
「大丈夫だ。逆に俺は……?」
「言ってないよ」
お互いに確認し合い安心する。気づかずに独り言を垂れ流していたら大問題だ。
「……もしかすると神様のせいかも」
「神……?」
ノートを膝の上で閉じて、ヴァネッサがソファにもたれ掛かりながら呟く。
「だって、あんなに激しい独り言は前世でも普通じゃなかったよね? だったら異世界から連れて来た神様が関与してるんじゃないかな……」
「加護や異能の代償かもしれないと……?」
「どうかな? そうなると私達も当てはまるはずだけど……」
「俺の場合加護を持っていない。ラスの鎧も、異能ではなく神器と言う物らしい。ヴァネッサは月神の加護を持っているが、異能を持っていない。消去法で言うなら異能のせいかもしれないが……」
悶々としながら、二人で答えの出ない疑問について熟考する。
「……今まで出会った異能を持っているヴィーダ人は特段独り言は多くなかったから、何とも言えないな……」
「じゃあ、神様は関係ないのかな……?」
「分からない。あくまで俺が出会った人間に限られるが……独り言が特に激しかったセイジとグローリアは、自分がこの世界の主人公だと思っていたり、この世界が物語で自分の周りの人間が物語の登場人物であるかのように振舞っていた」
「……この世界の事を現実だと思ってないからおかしな独り言を……?」
「可能性としてあると思う……その考えが、神々に影響された物かどうかは分からないが」
「謎だね……」
――神々が関与しておらず単純に異世界人が元からそういう性格だった場合……どういった基準で異世界から招く魂を選定しているんだ……?
神々が異世界人をこの世界に招いている目的が分からない以上見当もつかない。
――少なくともカズマとセイジは、俺と出会う前まではあの様な振る舞いをしていても生き延びることが出来ていた。ただ悪運が強かっただけとは到底思えない……何らかの形で神々が関与していると思うが……
「……私達はこれからも気を付けて、異世界人なのを隠し通さないといけないね」
「そうだな……ニルから聞いたエステファニアも、カテリナの日記に記されていたマサトも、カズマもセイジも……自分が特別だと勘違いして、増長してしまった異世界人は等しく破滅している。俺達も気を付けるに越した事はないな……」
――俺の把握している異世界人は、ヴァネッサとガナディアで召喚された三人組を除いて既に全滅している。俺達が出会っていないだけで、まともな異世界人が素性を隠しながら平和に生きていると信じたい……
「まとめると……おかしな異世界人しかいないんじゃなくて、異世界人だって分かる様に振舞ってるのがおかしな人達って事だよね……? それが分かっても、あまり……」
「……言いたい事は分かる。どの道おかしな人間に絡まれている事には変わりないから、仮にこの仮説が合っていた所で何の解決にもならない……」
俺もヴァネッサ同様ソファにもたれ掛かり、二人して深いため息を吐く。
「……アイスを食べないか?」
「……食べたい」
どんよりしてしまった空気を変えるために、収納鞄に仕舞っていたアイスの残りを食べることにした。器にアイスを盛り、ヴァネッサと並んで黙々と堪能する。
「……おいしいね」
「……美味しいな」
「……がんばろうね」
「ああ、頑張ろう。きっとなんとかなる」
「そうだね、なんとかなるよ」
アイスを味わいながら互いを鼓舞していると、不思議と本当になんとかなりそうだと思えた。