「聞いているぞ、君達も互いの為を思って王家の影に入ったのだと。気骨のある者が王家の影に加わってくれるのは大歓迎だ」
「……過分な評価だと思うが……ヴィーダ王に認められているのであれば良かった」
俺とヴァネッサの王家の影への加入は代理を務めたアルフォンソ殿下が認めてくれていたものの、ヴィーダ王の太鼓判を得られたのは安心する。
――評価の基準が少し独特な気がしないでもないが……
「デミトリ達も親父側なのか……」
「殿下……」
深刻そうな表情をしながら狼狽える殿下に対する反応に困る。息子を見ながら、ヴィーダ王が深い溜息を吐く。
「全く……アルフォンソ。大切な事だから改めて言う」
「親父?」
「端から見れば何不自由なくのうのうと王城で過ごしている様に見えるかもしれないが、王族と言うのは世界一不自由な人種だ。悪く言えば存在の全てを国に縛り付けられていると言っても過言ではない」
ヴィーダ王も色々と苦労をしてきたのだろう。現王の言葉の端々に滲む苦渋が降り掛かったかのように、その重みでアルフォンソ殿下の肩が沈む。
「分かってる。それが王族の務めだ……」
「だがそれを言い訳にするな。王になるのであれば、務めを果たした上で何が何でも大切なものを守る覚悟を持て」
――言うは易く行うは難しだな……
実際に殿下は王族の務めを果たすため、公正な方法で開戦派を処罰しようとしていた。俺から後ろ暗い手口を提案されてもすぐに断った位だ、そこを曲げずにグローリアを助けるとなると……下手な事はせずにグローリアの未来予知通りに動こうとしてしまうのも分かる。
――だが、未来予知通りに進める為に俺の協力を取り付けた時は無断で王城内で転移魔法を使用できるように手を回していた。ちぐはぐな行動は、殿下の葛藤の表れだったのかもしれないな。
「……大体王族の務めに生涯縛られるんだ、好きな子を助ける為なら多少無茶をしても罰は当たらない」
「そんなに軽く考えられないのは親父が一番分かってるだろ……」
「分かっているからこそ言っている。王族の務めだけをただ淡々とこなす人形になどなるな。どんなに困難でも、大切な人を守れる人間になれ」
ヴィーダ王の声色が少し悲しみを纏った様に感じた。心情は計り知れないが、ヴィーダ王も何か過去に似たような失敗をしてしまったのかもしれない。
「……多少無茶をしても、親父が尻を拭ってくれるんだな?」
「全く……任せておけ、私を誰だと思っている?」
不敵に笑うヴィーダ王は頼もしいが、殿下が想定している無茶の内容が気になる。親子喧嘩がひと段落したところで、会話がようやく本題に移ろうとしていた。
「待たせてしまってすまない。茶会での出来事と今後について親父に報告したら同席したいと言い出したんだ」
「アル、グローリアちゃんとお前を心配する私の親心をお前もいつか分かる時が来る」
「……! 頼むから、子供扱いはよしてくれ」
「どんなに大きくなっても、お前とエリックは私とロレーナにとってはずっとかわいい我が子だ」
「くっ……!!」
――話が進まないな……エリック……?
「あの、発言してもよろしいですか?」
「何だい、グローリアちゃん」
「未来予知の内容について、明日以降の内容をまだお伝えできていなかったので共有させて頂きたいのですが……」
「そうだな。まずはグローリアちゃんの話を聞こう」
グローリアからの助け舟のおかげで、再び脱線しようとしていた話が何とか本題に戻った。
「私は……本来呪詛の矢を受けて呪いにより衰弱し、明日死ぬ運命でした」
二人共既知の内容のはずなのに、ヴィーダ王とアルフォンソ殿下が同時に顔を歪めた。
「ずっと聞きたかったんだが、グローリアちゃんを射抜いた下手人は誰だい?」
死んではいないので下手人と呼ぶのは間違っている。安易にそんな指摘をする事などできない程怒りに満ちた表情を浮かべたヴィーダ王を前に、グローリアがたじろぐ。
「えっと、物語上だと説明されていないので分かりません……光神教会の手の者とだけ――」
「教会か」
今度は鬼の様な形相をした殿下が呟き、拳を休めているテーブルに圧力が掛かっているのか高級そうな木材が悲鳴を上げている。
――先程まではそんなこと思わなかったが、親子なだけあって似ているな……
「とりあえず教会を滅ぼせばすべてが丸く収まりそうだな」
「教皇には色々と世話になっているんだが、残念だ」
――は?
「ちょっと待ってくれ、一回グローリア様の話を最後まで聞かないか?」
「聞くまでも無いと思うが?」
グローリアの事になり、急激に知能指数が下がってしまった親子に頭を抱えたくなる。
「あるだろう! 光神教がどれだけヴィーダ王国に浸透しているか分からないがヴィーダ王が教皇に世話になるぐらいには教会の存在が大きいんだろう? グローリア様の知っている情報次第だが、現時点で開戦派と関与しているのが分かっているのは枢機卿と光神教聖騎士団、後は……メソネロ大司教やひょっとすると一部の司祭か……? 教皇や他の人間が白なら無暗に敵対行動をしたら国民の反感を買うんじゃないか?」
当たり前のことを言っただけなのに、ぽかんとした表情を浮かべた王族の親子とグローリアが解せない。
「はは、そうか。デミトリはヴィーダに来て日が浅いんだったな」
「私も失念していた。心配するなデミトリ、滅ぼすというのは軽い王族流の冗談だ」
「……冗談には聞こえなかったが?」
「王族がむやみやたらに力を振りかざしたらだめだろう。滅ぼすというのは敵とみなして完膚なきまで社会的に抹消するというだけで、デミトリが想像しているような過激な行動は起こさないぞ?」
――……想像していた以上に過激なんだが??