「グローリアちゃん、体の一部と言うのは髪の毛や爪程度でも該当するのか?」
「はい! 後は、血も……」
「……俺はストラーク大森林で負傷した後エスペランザで治療を受けた。開戦派の関係者か彼らが金を握らせた人間が、俺の血の滲んだ包帯かそれに近しい何かを回収していたのかもしれないな……」
――体の一部が必要と言う制限はあるものの、どこに居ても追跡出来てしまうとは。強力な異能だな……
あの時、ヴァシアの森で襲われた謎が解けたのと同時になぜ異能で俺の位置を把握しているイニゴではなくあの三人が派遣されたのかが気になる。
――イニゴの戦闘能力自体は低いのか?
グローリアが一番厄介と言っていた通り、ヴァシアの森で俺を襲った三人組の能力は控えめに言って事前に準備をしていても勝ち目が薄い程強力だ。確実に俺を捕らえる為に選抜されたのであれば頷けるが、なぜそこまでして俺を狙ったのかが謎だ。
――物語の中で俺があいつらに襲われていなかったというなら、俺達の知らない所で何かがあって物語が変わったのか……?
「……今もデミトリが王城に居る事は筒抜けなのか?」
「イニゴが異能を使っていたら恐らくそうだと思います……」
グローリアの説明にアルフォンソ殿下が分かりやすく反応する。現在進行形で位置を追跡されているのは彼等からしてみれば落ち着かないのも頷ける。
「あまり心配するなアル」
「親父?」
「公爵邸が襲撃され、その場に居ただけでなくデミトリはお前の護衛達と肩を並べて戦った。加えて対外的にはアルの賓客だと周知されている……デミトリが王城に居ても怪しまれるとは考えにくい。お前に呼ばれてグローリアちゃんの見舞いに来ていると考えるのが自然じゃないか?」
ヴィーダ王の見解にアルフォンソ殿下が納得しかけた所で、新たな懸念点が頭に浮かぶ。
「……グローリア様は今晩この部屋から動かない方が良いかもしれないな」
俺の発言を聞き、和らぎかけていたアルフォンソ殿下の表情に再び影が落ちる。
「……どういう事だ?」
「グローリア様が呪詛の矢で負傷した時、茶会のテーブルに置いてあった布巾で止血していただろう? 誰が回収してどう処分されたのか把握しているのか?」
「そういう事か……」
――グローリアの位置を異能で追跡しているのであれば、呪詛の矢で負傷しているはずの彼女が王城内で動き回っている事に違和感を覚えるかもしれない。異能で追跡されていなかったら杞憂かもしれないが今は安全策を――
「っ! グローリア様! 千里眼の異能の精度どれ程の物なんだ!?」
急に声を荒げてしまったため、驚いたグローリアが息を呑んで硬直してしまった。
「大声を出してしまってすまない。大体の位置しか分からないのか、遠くの様子も監視できるのかどうか教えて欲しい」
「えっと、確かイニゴは追跡対象の居る方角と距離しか分からないはずです」
「良かった……」
――そんな情報だけでよくあの広大なヴァシアの森の中であの三人組は俺の事が見つけられたな……
「急にどうしたんだデミトリ?」
「異能の精度次第では俺が迎賓館から王城に来る時に通った抜け道がばれているかもしれないと――」
俺の発言に壁際で待機していた王家の影たちが激しく動揺したのが分かる。今までほぼ存在感を感じない程壁と一体化していたのに、今はうずうずと動き出したい様子で落ち着きがない。
「全く……ニルには残ってもらうが他の者は行ってもよい」
ヴィーダ王の号令と共に、待機していた王家の影たちがニルを残し一斉に部屋を出て行った。何が起こっているのか分からない様子のグローリアを置いてけぼりにしながら、ヴィーダ王がニルに指示を出し始める。
「ニル、影たちの指揮はお前に任せる。賊が抜け道を通っていない事を確認でき次第……念のため一時的に封鎖と警備体制の強化を行ってくれ」
「はっ!」
「追跡の異能……あまり脅威ではないと勘違いしていたが厄介な能力だな……」
――アルフォンソ殿下の言う通りだ。使い方次第でいくらでも情報を得られてしまう。
「……あの時殿下に止めてもらっていて良かった。勇み足で教会に攻め込んでいたら、イニゴに俺が近づいているのが気づかれて手痛い反撃を食らっていただろう」
「つくづく異能と言う物は敵に回すと厄介だ。味方が持っているとこの上なく心強いのだが……」
ヴィーダ王も思うところがある様子で静かに髭を撫でている。
「今も尚デミトリが千里眼の異能で監視されていてグローリアちゃんと一緒に居る事も把握されているのであれば、あまり王城に長居させるのは避けた方が良さそうだな……不審がられる前に迎賓館に戻った方が良い。グローリアちゃん、急かしてすまないが対策を講じるのが急務だ。後の二名の異能について教えてくれないか?」
「はい……! 『審判のガブリエル』と『奇跡のサミュエル』は――」