「あの二人のご遺体は、どうするつもりなんだ?」
真剣なまなざしで、ジステインが問いかけてくる。
「二人の故郷、ドルミル村まで連れて行って埋葬します」
「そうか!」
回答に満足したのか、ジステインがまた柔らかい雰囲気を纏った。
「詳しくは聞かないんですか?」
「聞くだけ野暮なのは異能を使わなくても分かる。遅れてしまって申し訳ないが、息子の行いについて謝罪する。申し訳なかった」
ジステインが両ひざに手を重ね、腰を折り深々と頭を下げた。あくまで推測だがエスペランザ内でもそれなりの立ち位置と思われる人間に頭を下げさせても良いものかと動揺する。
「頭を上げてください! 客観的に見れば俺は正体不明の遺体を輸送している脱走兵です。怪しまれて当たり前なので、揺さぶりを掛けようとしたんだと理解しています。実際、効果はあったので……」
「やった理由は理解できても、納得はできていないと顔に書いてあるぞ」
「……本当に大丈夫です。お願いしたらすぐに丁重に扱ってくれました、それだけで十分です。むしろこちらこそ取り乱してしまって申し訳ありませんでした」
「ふっ、やさしいんだな」
微笑んだかと思えば、おもむろにジステインが立ち上がり天幕の出口に向かう。
「君と話せてよかった! 押収された君の所持品と二人のご遺体は明日改めてミケルが返還する。あの子も君に謝りたがってたから、よかったら話を聞いてあげてくれ」
「分かりました」
そう言い残すとジステインは颯爽と去っていき、一人天幕の中に取り残された。
――――――――
食事を終え、寝床を準備した頃には野営地全体が静まり返っていた。天幕の入口から外を覗くと、遠目に夜の番をしている兵士が見える。
――武装を解かれているとは言え、全く見張られていないのはミケルとジステインのお墨付きを貰えたからだろうか? それほどまでに絶対的な能力、真実を見抜く異能……か。
横になりながら毛布を被り、睡魔と戦いながらミケルとジステインの異能について考える。
――ジステインの立場で考えると妙な話だ。仮想敵国の脱走兵が、仮に嘘をつかない正直者だったとしてあんなに容易く自分の能力を開示するだろうか?
彼の言を借りるなら、ジステインは国防を任されている立場の人間だ。
――わざわざ異能を説明する理由が思い浮かばない。そもそも、あれは本当に真実を見抜く能力なのか?
ジステインは、俺が嘘をついていない正直者だと言っていた。
――ミケル相手に家名を語らず、貴族であることを隠した。都合の悪い情報を秘匿して伝えるのは、正直者のやることじゃないと思うが……
疑問に思う点は他にもある。
――逃げなければ死ぬと思ったのは本心だったが、『逃げなければ確実に死んでいました』と断言したのは問題なかったのか?可能性が高いだけで必ずそうなるとは言い切れないはず……
嘘かと言われれば微妙な所だが、真実を見抜く異能の全貌がつかめない。
――ヴィセンテの件もそうだ。俺が勝手にヴィセンテとカテリナに恩を感じているだけで、一般的に恩人と呼べるような間柄ではないのでは?片方の一方的な感情でも事実として扱われるのだろうか?
あの時は魔力の制御が乱れたせいでラウルに取り押さえられてたので、それどころではなかっただけかもしれないが……
――……気まずいな。
尋問時の失態を思い出し、身じろぎする。急な魔力の乱れは、あの状況であれば攻撃の予兆と捉えられても仕方がない。
――彼らは俺が魔法を使えないのを知らないから尚更だな。攻撃魔法の準備をしていたと思われて当然だった。
天幕に踏み入ったラウルに、その場で切り捨てられなかっただけかなり運が良かった。
――明日、俺の方からも謝罪しないといけないな……ラウルにはどうやら完全に嫌われたみたいだから出来れば顔を合わせたくない……さすがに昨日の事もあってミケルと一対一にはならないだろうからラウルも居そうだな……
眠気と、数か月ぶりに天幕とはいえ屋根の下で眠れる安心感からか思考がどんどん逸れていく。
――……寝よう。
これ以上は考えがまとまらないと判断して、明日に備えて眠りについた。